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コピー·コピー·コピー

高校時代の同級生に、とにかく何でも他人の真似をする人がいた。

友人の持ち物やファッションをすぐに真似して、双子か!って言うほどに寄せて来る。


あ、いいな、可愛いなあ、私も欲しいなあ、私も同じの買っちゃおうかなと思うことは誰でもあると思うけど、その子は限度を超えていた。


「もう真似しないで」「何で何もかも私の真似するの?やめてよ」と相手に言われてしまうほど、病的に真似をしていた。


相手や周囲を嫌悪させるまでやる、嫌悪されても尚やり続けるから、引かれて距離を置かれるようになっていた。


しかも、持ち物やファッションだけでなくて、宿題や作文まで完全コピー。


もう、丸写しの極致。宿題の答えを丸写しはともかくとして、他人の作文を丸写しする人をはじめて見た。

一言一句変えずに丸写しでそのまま提出してしまうのだ。


その子と、丸写しされた子が職員室へ呼び出され、戻って来ると丸写しされた方は怒っていた。

そりゃあそうだ、小学生だってそんなことはしない。写すにしても、もうちょっと自分のアレンジを加えてバレないように工夫するものだ。

その子にはそうしようという知恵、機転、意志すらないように感じる。

口では「ごめんね」とは言うけど、でもまたすぐやる。

写された子が、どうしてこんなことするのと怒り気味に聞くと

「だって私が困るから」

「は?!」

悪びれることなく答えた。

「あなたみたいな頭のいい人のものを写せば私の成績も良くなると思って」

写された子は学級委員をしていた。それを聞いてもう何も言わなかった。

話が通じない、話にならないからだ。


その子には中学時代からの友人が他のクラスにいたが、私服を嫌というほど真似をされて嫌がっていた。

「ちょっと、何で真似するの、もうやめてよ」

明らかに不快そうな顔をしていた。



新学期になると席替えがあり、私の近くの席にその子がやって来た。

早速私の持ち物を見せてくれとしつこい。

「嫌」

そう言うと、私が見せるまで机の前からどこうとしない。

親しくもないのに、ここまでぐいぐい来るってなんだろう。

距離感おかしいし、自分の要求をゴリ押しばかりするこの人が、私は不快でしかたがない。

この人は普通じゃないと思った。


宿題や作文を写す、持ち物やファッションを真似をする、そういう人は他にもいるのかもしれないけれど、その人は言葉にするものは全部誰かの受け売り、どこかや誰かに聞いていたのもの読んだものを、まるで自分のオリジナルの意見のように平気で言っているのだ。


こちらはその子を友人とは全く思っていないのに、私達友達でしょ、いいじゃないと詰め寄って来る。

友達でもないし、全然良くない。

とにかく関わると疲れる。そしてろくなことにならない。


私は彼女をできるだけ避けた。それでも懲りずにしつこい態度は変わらなかった。


進路を決める時期になり、私は進学を選んだ。彼女は就職か進学かで悩んでいるようだったが、丸写し事件があったからか、担任から「あなたには進学を勧めない」と言われたらしい。

そりゃあそうだよね。自分の作文やレポートを自力で書けない人が進学とかありえない。


でも彼女は進学した。私と同じ短大の同じ学部に。

あろうことか私と同じクラスだった。

彼女は私の服を真似しはじめた。同じサークルに入って来るし、バイト先まで真似して同じ店にやって来た。もう勘弁して欲しい。


レポートを見せてと言ってきたので、あなたは丸写しするから見せないと断ったが、その後もしつこく食い下がり、「絶対に丸写しなんてしないから、お願い少し参考にするだけだから」

まとわりついて離れないので、辟易した。

「絶対に丸写ししないって約束できる?」

「うん、約束するから」

「絶対だよ」

「わかってる」


これだけ念を押しておけば、さすがに丸写しはしない筈と彼女に見せた自分の甘さを後悔した。


作文やレポート、論文などは、単なる課題ではなくて個人のれっきとした作品なのだ。

人が心血注いで仕上げたものを、あっさり丸写しするその神経、良心の欠如には怒りを通り越して、こんな人間が存在するということに慄然とした。


しかもあんなに約束しておきながら、それを平気で破る。

彼女は遅刻癖もあり、何度注意を受けても直らないものが多い。


私は先生に呼び出されてレポート丸写しの経緯を説明させられたが、彼女は自分こそが真似されたのだと、自分の罪を私に着せようとした。

憤怒に震え反論したが、レポートは再提出を食らった。

二度と彼女には見せない、真似させるものかと決意した。


これっぽっちも懲りていない彼女は、また見せてくれ、代わりに書いて欲しいだの言ってくる始末。

もちろん応じなかったが、そんなの酷い冷たいと私をなじった。


酷いのはどっちよ!?


結局、代わりに書いてくれる人を探して乗りきったようだ。

書いてくれたらお菓子をあげる、ランチを奢るからっていう条件で飲ませたらしい。

その程度で作品を他人に作らせる根性がしょうもない、お菓子で釣ろうとするなんて、子どもか!?


色々呆れてものが言えない。彼女の被害に遭った人はみな黙る。あまりの酷さに言葉が出なくなるのだ。


その後もお兄さんに書いてもらったとか言っているのを耳にしたが、自分で講義のノートもとらず(とっている振りだけ)に、他人のノートをコピーしてもらっていた。


今の時代ならスマホで写真に取る、誰かに転送してもらって済ますのだろうか。


とにかく、彼女はひたすら怠惰な学生だった。


そんな彼女が、エッセイストになりたいとしれっと言っているのを聞いて、耳を疑った。


まあ、ゴーストライターを雇えば可能かもね?


でも、そのような人に作家性はないし、アーティストやクリエイターではまずないよね。


正当な努力はせずに、悪知恵ばかり働かせるけど、それも詰めが甘いからバレるんだよね。


残念なサイコパス?


他人のコピーの達人、パクリ職人かもしれしれないけど。


たとえ真似したとしても、彼女には似合っていない、合っていないものの方が多い。


そこをまったく度外視している。


彼女の奇行、異常行動をまとめ上げて書いたら本が出せそうだ。


その後彼女は教職課程のレポートをまた完全コピーで提出して、落第、中退した。


落とした単位を金を渡して買おうとして担当教授の逆鱗に触れたらしい。


まったく、どこまでも···。


それでも卒業式には袴姿で堂々と出席し、謝恩会にもちゃっかり参加していて、クラスメイトをビビらせていた。


彼女は都合の悪いものは完全無視、完全拒絶で突き進む。

それがいかに常軌を逸していたとしても、お構いなしだ。


だって、私がそうしたいんだから、いいじゃない!


そうじゃないと、私が困るじゃない!


そう言いながら、自分が止まることや改めることは絶対にない。


周囲をなぎ倒し、迷惑を押し通しながら今日も明日もその最凶な道を、誰かのコピーで突き進むのだ。



(了)

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