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そっとお家で暮らしている

私は自分で言うのもなんだけれど、のろまだ。ドジではないがのろまだ。

自分のペースでやればできるのだけれど、社会へ出て、どこかの職場で他人のペースに合わせることがとても難しい。


それでも自分なりに頑張ってはいるけれど、のろまな奴認定は避けられない。

悔しいけれど事実なので反論や反発はしない。とにかく作業は遅くてもミスだけはしないようにしている。


けれども私のミスではないのに、私がのろまだからと全部私のせいにされてしまうこともある。

そういう時には反論するけれど、誰も信じてくれず、誰もわかってはくれない。


こんな私だから嫁の貰い手もないだろうから、細々とでも、肩身の狭い思いをしながらであっても地道に働いていくしかない。


誤解され罵倒されると、悲しくて堪らない。

私の反論は届かないから。

意地悪で図々しい人達はいくらでも人のせいにして逃げる。

そして図々しい人は、なかなかいなくならないので、毎日がストレスフルになってゆく。

図々しい人は結婚して仕事を離れても、また職場に戻って来たりする。


──戻って来なくてもいいのに。


図々しい人は、自分が職場で嫌われているということが全くわかっていないから、我が物顔で戻って来るのだ。

そして面倒なことややりたくないことは誰かに押し付けて、楽やズルばかりをしようとするのだ。

自分の立場が悪くなると責任転嫁するか、弱者や被害者ぶって誤魔化そうとする。


どこまでも図々しい人はとても迷惑だ。


でも、私ものろまだから、職場に迷惑をかけている人間の一人なのだ。

だから小さくなってなるべく目立たないように、息を潜めて働いている。


ある日、私は図々しい人に冤罪を着せられて、職場を去らなくてはならなくなってしまった。

皆の積立金を横領したというものだ。


「私ではありません!」


私の必死の抗議は、誰にも届かなかった。


私はのろまだったけれども、それでも勉強はできる方だった。

だから学校に通い資格を取って、今までとは違う仕事につくことにした。同じ仕事ではもう雇ってはもらえないからだ。


私に冤罪を着せて私の心を踏みにじり経歴に傷をつけた人は、女の武器を使って更にのし上がっていった。

彼女は所長の愛人になったのだ。夫にバレて離縁されても愛人でい続け、職場のボスとして君臨した。

図々しい人とは、信じられないほど非常に面の皮が厚いのだろう。


私が学校を卒業し資格を得てようやく新しい仕事を見つけた頃、かつての職場の所長が倒れて死亡した。

それによって彼女は職場から追い出されたようだ。


その図々しい人はなぜか私を頼って来た。


「お願い助けて!私困っているの。あなたの雇い主に私を紹介して頂戴よ!」


どうして自分に冤罪を着せた相手を私が助けると思えるのだろうか?

どんな思考回路をしているのかと理解に苦しむ。


そんなことはもうすっかり彼女は忘れているのだろうか。


「あなたが私の冤罪を晴らしてくれたら、その時は紹介しても良いですよ」

「······っ?!」

「私の今の職場は法律を扱う所です。他人に冤罪を着せ、不貞を続ける法律破りの人はこの職場には不適格です」

「な、何よ、あんたなんかのろまなクセに!」

「はい、私は確かにのろまです。でも今の職場は私のペースで良いと言ってもらえますし、意地悪で図々しい人もいませんから、天国のような職場です」


私が満面の笑みでそう返すと、図々しい彼女は舌打ちしながら去って行った。



私の今の雇い主は、私の夫だ。


「君のペースで無理せず確実にやってもらえればいいよ」


私はペースはのろいけれど、その分仕事は確実だ。ミスをしない、ミスが少ない点を買われたのだ。


それに、職場は私の自宅でもあるので、ゆったりお茶を楽しみながら働くことができるのだ。


表には出ないけれど、裏で夫のお手伝いをしているというわけ。


夫は資格を取る時に通った学校の講師でもあった。

作業の正確さを褒められて、私は傷ついていた心も段々癒えて行った。


家事もゆっくりなのだけれど、寛容な夫は苛立ったりはしないのだ。


なけなしの預金を叩いて学校に通い、資格を取るまでは不安で仕方がなかった私も、今ではそんな恵まれた伴侶と職場を得ることができた。


私にとっては天国みたいなお家で、日々平穏にそっと暮らしているのだ。



(了)


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