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あなたとは違うので

「あなたがやったんでしょ!」


彼女はラウラ様、被害妄想が激しいことで有名な伯爵令嬢だ。


ドレスの裾がめくれたまましばらく歩いてらしたようでオカンムリ、傍にいた令嬢を叱責している。

ご自慢の美脚を皆様に披露できたのだから、それはそれで良いのではなくて?


やってもいない人を犯人扱いをするのは日常茶飯事。


自分の意中の令息と親しくしているご令嬢にも「色目使って!」「この女狐が」なんて食ってかかるのは見苦しくて仕方ないわ。


「あなたなんて最低よ!」


それは、あなたの方なのでは?


と皆白け切っているのも気がつかないのよね。


下衆の勘繰りをする人が最も下衆なように、真の品位や品格を持っていたら、そんなことはまずしないというのに。


そう、皆様はあなたとは違うのよ。


してもいないことを、やったと決めつけていちゃもんをつけて来るなんて、失礼千万なのに、それで人違いだとわかっても謝りもしないなんて、令嬢の風上にも置けないわ。


良い人の普通と下衆な人の普通は同じじゃない。

良い人の普通は下衆にはわからないし、下衆な人の普通は良い人にはわからないのだ。


自分の取る行動や反応が下衆なのかどうかすらわからない人に、本物の令嬢はいないわ。


嘘を吐く人は、嘘をついて自分を良く見せようとか、誰かの悪評を流して足を引っ張るために嘘をつくのかもしれないけれど、本物の知性を持っていたら、嘘をつかずに相手や周囲に自分の良さを知ってもらえるので、そんなことは間違ってもしないものなのよ。


本当に賢い人、本当に良い人は、嘘をつく必要がないのよ。


自分をいかにもいい人に見せようとするのは、それは実際自分がそれほど良い人ではないからでしょう?


悪知恵ばかり働かせる人に良い人はまずいないわ。


殿方に色目使って近寄らないと自分を選んでもらえないと思っているからこそ、他の令嬢に対しても、「あの女は色目使いやがって」なんて思うわけでね。


自分が色目を使ってでもという人だから、他の人もそうに違いない、絶対そうだと思うわけでしょ?


下衆な自分を基準にしているから、他の人もきっと同じようにする筈だなんて思うのよ。


他人は自分とは違うのにね。


ラウラ様のように他者に難癖つける攻撃的な人ではなくても、迷惑な人はいるのよね。


「まあ、それはどうしてですの?」とか「なぜそう思われたの?」


と疑問に感じたことを質問しただけで、私を苛めたとか被害者ぶって来る人もいたりするのよね。


否定や非難をしたわけでもなく、単に質問しただけなのに。

まだ、一言も否定や非難の言葉は発してもいないのに、勝手に否定や非難するに違いないという自己防衛から、無実の人を犯人に仕立てるのよね。


その質問への回答がどうなのかで初めて反応や判断を示すものなのに、質問しただけでまるで否定や非難されたみたいな言いがかりをつけて来て、こちらに非があるように振る舞うなんて迷惑すぎるわ。

しかも結局質問には最後まで答えないなんて人は、会話すら成立しないのよ。


話にならない、話の通じない人は本当に困るわ。


えっ?ああ、そのような人は地雷系令嬢と最近社交界では呼ばれているのでしたわね。


被害を訴えてわめくのは自由ですけれど、それだと令嬢としての価値は下がりますわよね。

縁談もそれでは申し込みは来ないでしょうね。


他者を闇雲に疑うよりも、まずは自分のその感覚を疑う方が先決よ。

あなたの普通は他人には異常であることもあるのだから。


自分のおかしさに気がつかないと、キリがないわ。


性善説ばかりではないこの世界ではあるけれど、自分こそ犯罪者みたいな思考や行動をしている、自分の方が下衆なことをしていることに気がつかなければないならないのよね。


下衆な人のプライドなんて真のプライドではないのよ。


恥を知らない、恥が何かわからない人には、本物のプライドは持てないものなのだから。


下衆な人のプライドなんて、裸の王様みたいなものでしかないのよ。


知らないのは自分だけで、ふんぞり返っていい気になっているのを、皆に嘲笑されているとか、眉をひそめられているのと同じなのよ。



ラウラ様が、新しいターゲットとして私を選んだようだ。


「私を陥れるなんて酷いじゃないのよ!」

「身に覚えは全くありませんわ」

「う、嘘をおっしゃい!」

「嘘などではございませんよ」

「どうしてそんなことが言えるのよ

?」


ラウラ様は虚偽の情報を流してライバル視していた令嬢を騙して恥をかかせたというのを最近聞いたばかりだ。


「誰かを陥れる、それはあなた様のことではなくて?私はあなた様とは違いますので、神に誓ってそのようなことは致しませんわ」


ラウラ様は怒り心頭だったのか扇子を真っ二つに折ってしまった。


あらあら、それでは益々ご縁が遠退くわね。


自分よりも高位の侯爵令嬢に、いわれのないいちゃもんつける令嬢なんて、誰も嫁には欲しがらないわ。


自分がやっていることのおかしさや、それによって発生する悪影響がわからないならば、貴族としては致命的ですもの。



私は婚約していた公爵令息の元に嫁いだ。


夫と久しぶりに参加したある夜会で、ラウラ様が敵意剥き出しで近寄って来た。


この方は、何も変わっていないわね。


「どうしてあなたばかり幸せになるのよ!」


なんて口の聞き方かしらね。本当に令嬢としてなっちゃないわ。


「当たり前ですわ。私はあなたとは違うのですもの。まだおわかりにならないの?」

「ど、どこが違うって言うのよっ!」

「それは全部ですわ」

「······は?」

「私とあなたは何もかもが違いますもの。同じ国民で女性貴族ということだけは共通ですけれどね」


何でも勝手に決めつける人は、他者と自分を同一視したがるものだ。


全く似ても似つかないのに、相手は自分と同じだと勝手に思い込む。


他者と自分の違いがわからない、いえ、違いを受け入れることを拒絶しているとしか思えない。



その後、彼女は私の真似をするようになったらしいけれど、気に食わない相手の真似をして、なぜ平気なのかしら?


私のアイデアを流用しても平気でいる。


恥を知らないって、本当に致命的ね。


最も肝心な部分を理解できない、それはその人が真の誇りというものが何かを全く理解できないからだ。


私はラウラ様に今後会ったとしても、また同じことを言うだろう。


「あなたと私は違うので」と。



(了)

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