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ママの愛はいつも言い訳

僕のママの口癖は「愛してる」だ。でも僕はそれを全く信じていない。

ママはよく浮気をする。そして嘘もたくさんつく。

パパと結婚する前も別の彼氏と二股をしていたんだって。

「私が本当に愛しているのはあなたよ」というママの言葉を信じたパパは、結局このざまなんだよね。

ママのいう「愛してる」は、とても都合がいい。「あなたを愛してるけど、こっちの人も愛してるの」っていうことでしかないんだから。

まあ、ママは誰のことも本気で愛してはいないんだよね。


「この人も好き、あの人も好き。だからどっちか一人なんて決められない。だからどちらが本当に好きなのかはっきりするまで両方と付き合うの」

「まだパパのことも愛してはいるのよ」

ママが浮気をすると、大抵そう言うんだ。


どちらかに決められないからじゃなくて、決めたくないだけだ。

決める気なんかはじめから無いくせにね。

大好きなお菓子はひとつよりも二つや三つあった方がうれしいからという感覚だよね。

たくさんあれば退屈しない、飽きない、一杯持っていればなくならないとか思っているんだろうね。


「ねえ、ママのことは愛してる?」

ママは時々僕に聞いてくる。

「ううん、愛してないよ」

だから僕は正直に答える。

「ひどい!」

って怒り出すけど、自分だって愛してなんていないじゃないか。

「ママはパパも僕のことも愛してなんかいないよ」

そう言うと、そんなことないと否定するけど、少しすればケロリとそんなことは忘れてしまう。


「出ていけ! お前とは離婚だ」

ある日パパは激怒した。堪忍袋の緒が切れたんだね。パパはもう限界なんだ。

パパは今までよく耐えたと思う。だからママとは別れて楽になった方がいい。

「嫌よ、だってまだ愛してるのに」

今まで浮気を何回したかわからない。今も不倫中なのにどの口が言うのだろう。

「俺はもう愛していない」

「あの人とは別れるわ」

ママの「愛してる」はとてつもなく軽い。空気よりも絶対に軽いよ。

都合が悪くなると、今さっきまで愛していると言っていた相手を途端に捨てるからね。

あっちからこっちへ、すぐに変わる。都合の悪い方から都合の良い方へ秒で乗り換える。


ママの愛ってなんだろう。そこに愛なんか無いよね。ママにはいつも愛がないんだ。


今までどれだけパパや僕が嫌な思いをしてきたかわからない人に、愛なんかないんだ。


今度はパパも強気で、ママと不倫相手に慰謝料を請求した。


「本気で言っているの?」

「俺はいつも本気た。お前とは違ってな」

「そんな、それじゃ私が困るじゃない!」

ママは専業主婦だったから、自分のお金を持っていないし、仕事もしたことがないんだ。

離婚されたら困るのに、なぜこんなことができるのか、僕にはわからない。

「お前が自分で働いて払え」

パパは突っぱねた。きっと撤回はしない。誰が見ても正しいのはパパだから。


ママは、不倫相手にフラれて、すぐにでも結婚してくれる人探しに忙しいらしい。

ママは働きたくないんだよ。自分が働かなくても済むような人でママと結婚してくれる人がいいわけさ。そんな人が見つかり次第家を出て行くというつもりらしいけど、そんな自分勝手が通るわけないのに。


ママは水商売なんていいんじゃないかな?お酒も好きだし、調子よく愛してるなんて誰にでも言える人だから、すぐにナンバーワンとかになれるかもね。誰かと張り合うとかマウント取るのも好きそうだし。

大好きな恋愛ごっこを楽しめてお金ももらえるなんて、ママにピッタリじゃない?

でも、お店や従業員に迷惑かけないようにとか、ルールは守らなきゃならないし、ある程度頭もよく無いとできないよね。

それにどんな仕事でも自分の責任は払わなくちゃならないもんね。



ママの離婚は確定したけど、ママのとばっちりが僕にもやって来た。

この際はっきりさせようと、パパが僕のDNA鑑定をしたら、僕はパパの血を引いていなかった。それで、僕も家を出なくちゃならなくなった。

ママとは暮らしたくないから、孤児院へ入れてもらえることになった。

ママは働かなそうだし、僕を食べさせられるほどの仕事も見つかりそうにない。再婚するにも僕を連れてするつもりなんて更々ないからね。

だからと言ってママを食べさせるために僕が働くなんて真っ平だ。


僕はママのような人が世の中で最も嫌いだ。平気で嘘をつき、いつでも愛を言い訳にしかしないこんな人は、母親とも思わない。自分の家族を蔑ろにする母親なんていらない。ママに僕の人生を滅茶苦茶にされたくない。


ママほど、 親なのに僕に本当の愛を向けてくれなかった人はいない。

ママは僕を撲ったり怒鳴るとか酷いことを言うことはなかったけど、愛はくれなかった。いつも自分のことしか考えていないから。

嫌になるほど浴びせられたのは「愛してる」という言い訳、相手を自分に繋ぎとめるための方便としての中身が空っぽな「愛してる」という言葉だけだ。


きっとパパは、僕のママではなければ、血が繋がってなくても僕を息子として育ててくれただろう。


ママのような人が僕の母親だったから、パパは僕も手放したんだ。


だから僕はパパを恨んだり憎んだりはしない。ママなんかと結婚して、本当に気の毒、災難だったと思う。



二年後、僕は養子縁組されて新しい両親を得た。パパは再婚したみたいだ。


僕の義母は僕の理想の母親像にぴったりのとても愛情深い人だった。義父もまた愛情深く僕のことを育ててくれた。


ママとは別れてから、「愛してる」を言い訳にしない、空っぽな愛を囁くこともない、立派な人達の元で幸せに暮らした。


そして僕も愛を言い訳にしないで、自分の愛しい妻と子を生涯愛すると誓うよ。



(了)

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