メイメイの実
龍年龍月龍日の龍の刻、龍谷村では龍神湖への生け贄が捧げられる風習があった。
生け贄は未婚の清き乙女が選ばれる。十六歳が成人のこの村では、龍の年になると自分が生け贄になるのを避けるために、年頃の娘達は結婚を急いだ。
十六年周期で巡ってくる龍の年、前回は長老の孫娘レイレイが捧げられていたので、今回は他家から出すことになっていた。
生け贄候補の娘は三人いたが、その中の一人であるメイメイという娘が自分から立候補した。
裕福な家の娘の親が金を払うので代わりに生け贄になってくれないかとメイメイの母に頼み込んだのを彼女は知っていたからだ。
メイメイは昨年農夫の父を亡くし、弟もまだ働き手としては幼く、生活が厳しかったので家族を慮り生け贄になることを承知した。
メイメイは家族に別れを告げると眠り薬を飲まされて棺に入れられ、その棺の蓋は釘で打たれた。棺は舟で湖の中央まで運ばれると錘と共に湖面に投げ出された。
棺は静かに沈み、湖の底へ到達するとその衝撃でメイメイは目が覚めてしまった。
メイメイはあまりの窮屈さで身動きできない暗闇の中、恐怖に襲われた。
生きたまま龍の餌にされるぐらいなら、殺されてから湖に投げ込まれた方がまだ良かったと思えた。
しばらくすると息苦しくなって、爪が剥げそうになるまで棺の蓋を開けようと必死に抵抗した。段々意識が朦朧として、ついに気を失った。
***
メイメイが目を覚ますと、湖畔の木陰に寝かせられていた。棺は見当たらなかった。
『我は贄を必要としておらぬ。今後一切贄を捧げること無きよう、そなたは帰って村の者に告げよ』
姿ははっきりとは見えなかったが、龍神らしき声の主がメイメイにそう言った。
「はい。あの、でしたら先代の贄のレイレイ様はどうなさったのでしょうか?」
『あれは我の番ゆえ妻とした。龍は生涯一夫一婦だから妻はもう要らぬ』
贄とは龍神の餌になるのだとばかり思っていたメイメイは驚いた。
「······では、レイレイ様よりも前の方々は?」
『未婚の他の龍神の妻として届けた』
「そ、そうなのですか······」
『生憎とそなたに引き合わせる未婚の龍神はいないのだ、許せ。龍神は側室を持たない。人とは違い龍神は一途ゆえ、浮気をするほど多情ではない。その代わりこの木の実を育てて、日々の糧とせよ』
龍神から手渡されたのは茶色の球体だった。
『食して見よ』
薄茶色の皮を剥くと、プルプルと白くみずみずしい果肉とその中央に目玉のような大きな種が見えた。メイメイは恐る恐る一口齧った。
「甘い!」
果肉はライチに似た濃厚な甘味で、メイメイの渇ききった喉を充分に潤した。
龍の目のようなその果物は『龍眼』という名だった。
『今後は贄の代わりにこの木の実を供えれば良い』
「はい。ありがとうございます」
鈴生りに実った龍眼の一枝を手渡されたメイメイは、夜も白々明ける中、家路を急いだ。
昨晩今生の別れを交わした筈のメイメイが戻って来たことを、母達ははじめは幽霊かと思い戦いた。
言葉を失っている母達に龍眼を剥いて食べさせるとようやく落ち着いて、感涙しながらメイメイを抱き締めた。
龍谷村ではこの時から娘を贄として捧げる風習は無くなり、龍眼の実を供えることになって行った。
メイメイの持ち帰った龍眼の実はこの村の特産物となって村を潤した。
また、メイメイの家の龍眼は他家の物とは違い一年中実をつけた。
そしてメイメイ達が金に困ると、メイメイの家の龍眼は、実の皮を剥くと金貨が溢れて来て、多すぎることなく当面必要な分だけ補うことができたという。
欲を出してもっと金を欲しがったとしても、それ以上はどうやっても実らせなかったため、働くのを怠けるとか金に溺れるようなこともなかった。
これはメイメイの家系だけに伝わる特別な秘密なのだった。
(了)




