誤解からGクラスに落とされた女生徒は恋を予感した
「佳奈香、今夜どうだ?」
国立AI高等専門学校の廊下で、突然の壁ドン。
栗毛でイケメンの男子学生だ。彼は、どこかの店の長男で、いずれ店を継ぐらしい。
遊びかもしれない。でも、この誘いに乗れば、私は店の若奥様になれるかもしれない。
貧乏な家庭に育った私にとって、チャンスだ。
黒髪を後ろで一つに結んでいるだけの私が、美容院に行って、美しく変身できるかもしれない。
「貴方には、彼女がいるでしょ?」
彼に彼女がいることは、皆が知っている。
「親父だって愛人がいるし、関係ないね」
アゴクイが来た。次はキスが来る。私のファーストキスを、彼に捧げて良いものだろうか?
「佳奈香! 私の彼を誘惑しないで」
この声は! 廊下に栗毛の女子学生が仁王立ちしている。彼の彼女に見つかった。
「こいつが、しつこくて、困っていたところだ」
彼は、素早く私から離れた。
「誤解です」
私から誘惑はしていないので、確かに誤解である。しかし、私には心のスキがあった。
「あんたが、私の彼氏にお揃いのマスコット人形を贈ったことは、もうバレてるのよ!」
誤解だ、彼が、私に人形のキーホルダーを贈ってきたのだ。
私は、そのマスコット人形が珍しかったので、今も、ポケットに入れている。
これはマズい。誤解なのに、浮気だと言われてしまう。
「学校の風紀を乱すな! 佳奈香はGクラス行きだ」
不運にも、彼女の後ろには校長が立っていた。
「そんな……」
自分に後ろめたい気持ちがあったので、誤解だとは、強く言い返せない。
「なんで私が学校最低のクラスに……」
私は、成績が良い事から、皆が憧れる特待生の称号を得ることは間違いないと言われており、学費が免除され、奨学金を得ている。
Gクラスに行ったら、成績が下がり、学費免除が取り消される。
実家に負担をかけるのは、浮気の誤解よりも、つらい。
自分の不運を恨むが、どうしようもない。身から出た錆だ。
◇
仕方なくGクラスに移った。
正規の授業から外された学生のたまり場で、外部には公表していない闇のクラスだ。
教室は少しホコリ臭い。大きな窓があるが、北向きで日が入ってこず、薄暗い。
男子学生が四人。
いずれも、由緒のある店の息子らしくて、お金を積んで裏口入学したとのウワサだ。
テストは最下位、素行も悪い、黒髪、茶髪、金髪、銀髪の四人だ。
同い年のはずだが、若く見える。
「新入りは佳奈香か」
黒髪が話しかけてきた。
後ろに、茶、金、銀が並んでいる。早速、新入りを歓迎するイジメが始まるようだ。
「学年で成績トップの令嬢が、このGクラスに落ちてくとは、滑稽だな」
学校の制服であるライトタンカラーのブレザー、黒の革靴が長身に似合っている。黙っていればイケメンだ。
「最初に言っておくが、学校の成績がトップであっても、特別扱いはしないからな」
成績が良いからと、チヤホヤされてきた学校生活は、もうない。
「佳奈香の成績程度なら、俺たちでも点を取れるから」
「え? いつも最下位なのに」
テストの成績は、個人情報であるが、なぜか、どこからか漏れ聞こえてくる。
「俺たちGクラスは、テストで満点をとっても、授業態度が0点だから、最下位なんだ」
「満点ならば、特待生として申請すれば……」
特待生になっておけば、進学や就職で特別な扱いを得られる……そのためには、学校の推薦状が必要である。しかし、鼻つまみ者であるGクラスの学生を、憧れの特待生に、推薦するわけがない。
「気が付いたようだな。佳奈香に特待生の道は無くなったということだ」
そうだ、私もGクラスだ。推薦状を得ることは無理だ。
「私には、何も残っていないのですね」
これまでにない絶望感に包まれる。出口が見えない。
「奨学金が止められたら、私は生活ができない」
「大丈夫だ。蛍光管を交換するバイトがあるぜ」
黒髪がバイトを勧めてきた。
「それは苦学生の仕事……私、苦学生だった」
「そういう事だ」
頭では理解はできるが、心では現実を飲み込むことができない。
◇
「ほら、男好きの女よ」
「浮気がバレたんですって」
学校の廊下を歩くと、同級生だった女子たちの陰口が聞こえる。
虫けらを見るような目だ。私も、昨日まで、あんな目で人を見下していたのだろうか。
「私は、その程度の女だったのですね」
女子の派閥は残酷だ。
どの派閥にも属してこなかった私の価値って、なんだったのだろう。
◇
「貧乏な私には、何の価値もなかったのですね。退学して、故郷に帰ることにしよう」
Gクラスで、一人つぶやき、退学届の緑色の書類を用意した。
◇
「佳奈香、今夜どうだ?」
廊下で、また栗毛の男子に誘惑された。
今なら、彼を奪う事が出来るかもと、私の心が揺らぐ。
このままではダメだ!
「私は、男に依存しないで生きていきます」
ポケットに入れていたマスコット人形を投げ捨てた。
「そういう事だ、優男君」
人形を拾い上げたのは、Gクラスの黒髪君だった。
後ろに、茶、金、銀が並んでいる。なぜ、皆がいるのだろう?
「このマスコットは、パチモンだな。俺が、供養してやろう」
黒髪君が凄み、栗毛男子は逃げていった。あ~、あいつは、遊びだったんだ。
「Gクラスに戻るぞ」
黒髪君が先頭で、他の三人が続き、肩で風を切って廊下を進む。
長身の四人組、皆が若く見えたのは、きっと輝きを失っていないからだ。
私は、その後に、そっと付いて進む。
この場所が、なぜか心地よい。私の輝きを取り戻せそうな気がする。
「あれ? 私の退学届が」
教室に戻ると、置いておいた緑色の書類が無くなっている。
ゴミ箱に、緑の書類が捨てられているのが見えた。
「佳奈香は、Gクラスの仲間だから」
後ろから黒髪君が声をかけてくれた。
(私のために……)
振り向くと、無邪気な笑顔、黒い瞳に男を感じた……ドキドキする。
私、黒髪の同級生が好きかも。
━ FIN ━
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