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未来知識で逆行した現代でスローライフを目指す  作者: Edf
第十二章 アメリカにて大勝負
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第七十三話 アナハイム国際会議にて②

 賭けは成功した。NTカーネルという単語にビルが食いついてくれたお陰で、現在こうして国際会議場の一室にて対象と向かい合っている。目の前にいるのは、未来にて世界を動かす巨人――ビル=ゲイト。自分でも信じられないほど緊張しているのがわかる大輔です。


『では……お話を伺いましょう』


『光栄ですわ。それでは、我がネクストは御社との提携を望んでおります』


 美和子さんが滑らかに切り出す。だが返ってきた答えは冷静だった。


『提携話ですか。しかし、現在の我々は新たなパートナーを迎える予定はないのですよ、Mrs.ミワコ』


 それも想定の範囲内。美和子さんはすぐに次の一手を繰り出す。


『まずは当社からの金額のご提示を。我々はおよそ四千五百万ドル程ご用意しております』


『な……四千五百万!?』


『馬鹿な!』


 思わず声を上げたのはビルの秘書。驚くのも無理はない。ネクストでは資産運用を徹底し、気づけば五十五億円近い資金を捻出することに成功していたのだ。


『ネクストは御社の株式を、現行株価の二割増しで購入し、同時に提携を結びたいと考えております』


 あまりに大きな額に、マイクロン側の空気がざわつく。秘書がすぐに問い質した。


『失礼ですが、本気ですか? その金額では御社が筆頭株主となる。企業防衛の観点から、こちらとしては受け入れがたい』


 そこで美和子さんは一呼吸置き、静かに答える。


『承知しております。ですので、こちらから一案を。――株式の譲渡はマイクロンとの直接取引に限定いたします。他社には一切流しません』


『……他所へは出さない?』


『はい。あくまで御社との信頼関係の証として、株を保持いたします。現在日本の商社が世界中で派手に資産を買い漁っているのは承知していますが、今回我々が提携する取り組みは、それ等とは全く異なります。互いにとってのwin-winを望んでいるのです』


 あまりに誠実すぎる提案に、秘書は呆気にとられたような顔をした。ビルも黙考し、やがて低く笑った。


『なるほど……』


 短い沈黙の後、彼らは小声で協議を始める。数分後、ビルが再びこちらに向き直った。


『Mrs.ミワコ。最終的には本社での会議に諮らねばならないが、個人的にはぜひお願いしたい。貴社の姿勢には感銘を受けた』


『ありがとうございます!』


 美和子さんが深く頭を下げ、俺も思わず心の中でガッツポーズを決めた。


 しかし、ビルはそこで言葉を継いだ。


『……実は我が社には今、少々厄介な問題があってね』


『オレンジ社との裁判の件、でしょうか』


『――ご存じか。やはり情報が早い』


 俺たちがうなずくと、ビルは苦笑を浮かべた。


『先ほどは強気で断るふりをしたが……正直、渡りに船という気持ちもあるのだ』


『ええ。我々もそこに交渉の余地を見出しました』


 言葉に嘘はなかった。相手の弱点を衝いたわけではない。だが、状況を見極めて「今しかない」と判断したのだ。


『ハハハ、正直ですな、実に結構好感が持てる。――どうですかな、今夜ディナーでもご一緒に?』


『はい、ぜひとも』


『よろしい。……それと、そこのボーイ』


 ビルの視線が俺に突き刺さる。


『NTカーネルの件、ゆっくり話を聞かせてもらえるかね?』


 やっぱり来たか……! 逃げられないですよね〜。


内心で頭を抱えつつも、俺は名刺を握り直した。

オレンジ社=言わずと知れた林檎のマークの会社です

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