第七十一話 テーマパークに行こう
ガイドの案内でアメリカ・カリフォルニア州アナハイムに到着した大輔です。
国際会議までまだ三日ほど猶予があるので、まずは観光を楽しむことにしました。
「ちぇっ、俺もラスベガスに行きたかった!」
「仕方ないだろ、未成年なんだから」
そう、爺さんと美和子さんは俺たちを置いて、憧れの大人のテーマパーク――ラスベガスへ。
爺さん曰く「死ぬまでに行きたかった場所ランキング第一位」だそうで、護衛契約の条件にまで組み込まれていたらしい。美和子さんも「一度は行ってみたかったの」とノリノリ。2人は今日から一泊で向こうを満喫するらしい。
結果、俺と健太は“お留守番組”になったわけだが、ガイドのジョージさんの娘――キャシーさんが気を利かせて案内役を買って出てくれた。
「今日はユニバーサル・スタジオに行くわよ!」
……というわけで、俺たちは夢のハリウッドテーマパークへ向かうことに。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
『大輔、健太、ユニバーサルに着いたわよ!』
『キャシーさん、今日はよろしくお願いします』
『任せて! 私の大好きな場所だから絶対楽しませてあげる』
ここに来るまでの車中で、キャシーとはかなり打ち解けた。彼女は父親ほど訛りが強くなく、英会話の練習にもなった。おかげで俺と健太もだいぶ耳が慣れてきた。
『それで、今日は大輔のおごりなんでしょ?』
『ああ。だから面白いとこ全部連れてってくれ!』
『ワオ! 太っ腹! じゃあ最初から飛ばすわよ!』
そうして俺たちはキャシーの案内で次々とアトラクションへ。
キングコングライドでは炎と水の洗礼を浴びた直後、巨大なコングが目の前に現れ度肝を抜かれる。セット見学では本物さながらの街並みに圧倒され、さらにガンマン姿にコスプレして記念写真も撮影。健太はノリノリで、俺はちょっと照れながらも一緒にポーズを決めた。
『いや〜やっぱハリウッドすげぇ!』
『ヘリが落ちてくる演出は本当にビビったよな』
『ふふ、でしょ? これがユニバーサルスタジオなのよ』
昼食を取りながら、体験したアトラクションの感想を熱く語り合う。異国の地でこんなふうに盛り上がれるなんて、ちょっと不思議な気分だ。
午後も各アトラクションを満喫し、健太は早苗へのお土産、俺はブラザーズにゲームグッズを購入。こうして俺達のユニバーサル観光の幕は降りた。
『今日は楽しかったわ。また会いましょうね!』
別れ際、キャシーは俺たちに勢いよく抱きつき、両頬にキスマークをべったり残して笑顔で去っていった。
「……なあ健太、これ早苗に報告していいか?」
「大輔、それをやったら戦争だからな」
2人で苦笑しながらホテルへ戻った。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
翌朝、待ち受けていたのは魂の抜けた顔をした爺さんと、苦笑いの美和子さん。
「どうしたんだよ、その死人みたいな顔」
「……聞くんじゃないわい!」
話を聞けば、爺さんは当初順調に勝ち続け、ラスベガスで20万ドルほど稼いだらしい、だが調子に乗って最後の一勝負でルーレットに全額ベット。結果見事にスッテンテンになった模様。
「アレはインチキじゃーーっ!!!」
爺さんの絶叫がホテルの廊下に木霊する。どうやら彼にとってラスベガスは“夢のテーマパーク”どころか、“地獄の遊園地”になってしまったようだ。
俺と健太は顔を見合わせ、肩をすくめる。俺たちのユニバーサル観光と、爺さんのラスベガス大破綻。対照的な結末に笑うしかなかった。
さて――。明後日は、いよいよ本番の国際会議だ。気を引き締めないとな。