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未来知識で逆行した現代でスローライフを目指す  作者: Edf
第十一章 目標へ向け日々彼是
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第六十九話 イケるバンド天国にて

「ヘーイ、セーイ!」


 どうも大輔です。時は1989年2月11日、私は今、とある公開収録会場に来ております。そう――あの伝説的音楽番組「イケるバンド天国」、通称イケ天の収録なのです。


「お〜……本物の宮家雄二に相川優だ! すげ〜〜」


 そう、あの名物司会コンビをナマで拝めるとは感激の極み。今日はアンダードッグの晴れ舞台。俺は子供組を総動員して応援に来ているのです。


「ね〜、由佳さん達は何番目の出番なの?」


 早苗は椅子の上でそわそわ。落ち着きがない。


「6番手。全13組だから、ちょうど真ん中くらいかな」


「永遠楽しんでるかい?」


「うん! みんな音楽上手だね〜」


 まあ確かに上手は上手だが、素人バンドっぽさも拭えない。正直、由佳さん達なら十分勝負になると俺は踏んでいる。



◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 舞台袖。アンダードッグの面々は既に楽器を手にしていた。


「……ようやくここまで来れたな」


「やばい、武者震いしてきた」


「昴さんでも緊張するんですね〜?」


「う、うっせーケイ! 緊張じゃなくて武者震いだって言ってんだろ!」


「ふふ、そういうとこ、昴って意外とウブよね」


 環のツッコミに、皆がコクコク頷く。顔を真っ赤にして反論する昴。普段は強気に見える昴だが、責任感が強いからこそ本番にも緊張するのだ。でも、武者修行の旅で度胸も鍛えられた。すぐに落ち着くだろう。


「アンダードッグさん、この次が出番です!」


 スタッフの声に全員の空気が引き締まる。


「よし……じゃあいつも通りおっ始めるか 全員、傾聴!」


 由佳の掛け声で、ふざけていた全員の表情が一瞬にして演奏者の顔へと切り替わる。


「ようやくここまで来た。緊張してブルってる可愛子ちゃんは……いないな?」


「「「「No ma’amーーーー!!!」」」」


「全国から集まった猛者に気後れしてる弱虫も……いないな?」


「「「「No ma’amーーーー!!!」」」」


「よし、ならば演奏だ! ここも我らの縄張りとする! 雌犬共――宴の時間だ!」


「「「「YAーーーーHAーーーー!!!」」」」


 その雄叫びを合図に、彼女達は憧れの大舞台へと飛び出した。



◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 ……結果だけ言おう。圧巻だった。


 出場バンドはどこも一生懸命だが、アンダードッグのステージは明らかに格が違った。度胸、演奏技術、観客のノセ方――すべてが段違い。これまでの出場者が次々と赤ランプで沈む中、彼女達は唯一ノーランプで完走。会場を完全に掌握したのだ。


 その後、いくつか健闘したバンドもあったが――結果は揺るがない。


 初代キングの栄冠は、アンダードッグの手に渡った。



◆ ◇ ◆ ◇ ◆


「かんぱ〜い!」


 その夜。俺たちは近所の焼肉屋で打ち上げ。キング記念だ勿論予算は全額ネクスト持ち。タダ飯バンザイである。


「どうだ大輔、見たか? これが私達の実力よ!」


 緊張してトチるか周りから心配されてたのを見ていたので、生暖かい目を向けつつ、胸を張る昴さんに対し、俺は半笑いで応じる。


「はいはい。本当に凄かったですよ」


「そうだろう、そうだろう! ガッハッハ!」


「もう、昴。調子に乗りすぎ」


「ケイさんも凄かったですよ。昔を知ってる俺からすると、雲泥の差です」


「ギャー! 思い出させないで〜!」


 ……まあ確かに昔は弾幕薄いよって散々絞った訳だし、あれから考えると、よくぞここまで成長したもんだ。


「大輔〜! わらしたちの成長、見たろ? すごかろうもん!」


 環はすっかり酔っ払い、方言が大炸裂。普段のクールさはどこへやらだ。


「大輔、これで私の事認めてくれますね、これからはちゃんと師匠として崇める様に、子供扱いしてはいけませんよ?」


 いや誰だよ、師匠だよ! いつもの無口振りはどこいった?


 普段寡黙なケイまで酔いで豹変。もう収拾がつかない。


「ははは、皆、楽しんでるな〜」


「由佳さん、止めなくていいんですか?」


「今日はいいんだよ。ようやく夢の舞台に立てたんだから……それより、大輔!」


「ん?」


「あの時の約束――叶えてくれて、ありがとう」


 由佳の瞳は真剣だった。


「やめてくださいよ。皆が努力したからこそです。俺はちょっと手を貸しただけ。それより目指すは次――五週勝ち抜け、グランドキングですよ!」


「ああ。必ず掴んでみせる。キングは渡さないさ!」


 力強く言い切る由佳。その横で仲間達も拳を突き上げる。


 こうしてアンダードッグの目指してきた大舞台への挑戦は、ひとまず終わりを告げるのであった。


 ――まさかこの番組が社会現象になり、初代グランドキングとなった彼女達がテレビで引っ張りだこになるとは。この時の俺たちは、まだ誰も予想していなかった。

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