第六十八話 元日の衝突?
「明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いします」
「おう、明けましておめでとう」
1989年の元旦。いつものように新年の挨拶を交わす。今日は特別に由佳さんも合流しているため、朝からいつも以上ににぎやかだ。
「しかし、今年は人が多いな」
それと言うのも当然で、昨夜は山名家も揃って泊まっていた為、現在居間には総勢七人がひしめいている状態。手狭ではあるが、それすらも楽しい。なにより――元日の美和子さん特製お雑煮は、この家の恒例行事だ。
「はい、それじゃあ皆でいただきましょう!」
「「「「「「いただきます!」」」」」」
「相変わらず旨ぇ〜!」
「年々旨みが増してるな。……何か裏で怪しい粉でも入れてないか?」
「や〜ね〜、大輔君たら」
「いや、これは本当に美味しいですよ」
山名家の二人も絶賛だ。晴彦さんに褒められた美和子さんが、少し照れているのが印象的だった。
食後はお年玉の儀。美和子さんは勿論、なんと今年は晴彦さんと由佳さんからも貰う事が出来たのだ。当然、子供組は狂喜乱舞である。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
恒例行事を終え、今年も全員で初詣へ向かいます。皆で馴染みの神社へ歩きながら向かっていた途中――偶然にも岡崎兄弟と鉢合わせしました。おや、今年は早苗も一緒か?
「明けましておめでとうございます」
「はい、本年もよろしくお願いします」
新年の挨拶を交わしたその直後。康二兄が俺に耳打ちしてきた。
「どどど、どういう事だ!? み、美和子さんの隣にいるのは誰だっちゃ!」
動揺しすぎだろう。そうか、そういや康二兄は山名家とのなりそめを知らないんだった。軽く事情を説明すると――
「くそっ、忙しくて顔を出さない間に、そんなことになっていたとは!」
絶賛後悔中の康二兄。その様子に気づいた美和子さんが気付いたのか声をかけた。
「あら康二さん。昨年はネクストの記事の件でお世話になって、本当にありがとうございました」
「いえいえ、私は事実を報道関係の知人に伝えただけです。興味を持ってくださったのは向こうで……私の手柄ではありません」
「いえ、それでも大きな助けになりました。康二さんには何とお礼を言ったらいいか」
「本当にお気になさらず。それより――そちらの方は?」
紹介を待たず、隣にいた晴彦さんが一歩前へ。
「美和子さんがお世話になっている方でしたか。失礼しました、私、山名晴彦と申します。風間家の皆さんにはいつも世話になってばかりで」
「そうでしたか。私は岡崎康二と申します。健太の兄です。……私も美和子さんにはお世話になってましてね」
次の瞬間、二人の握手が交わされた――のだが、その手にはお互い潰し合うほどの力が込められていた。幻視するほどの電流が走る。……これは一触即発か?
俺が冷や汗をかいていると、今度は由佳さんが耳打ちしてきた。
「おい、大輔。これは一体どういう状況だ?」
「あ〜……多分だけど、両方ともに美和子さんに気があるんだと思う」
「……なるほど。なら私にも、まだチャンスがあるってことだな!」
げっ。そういえば由佳さんは以前から康二兄に気があるんだった。ここに来てさらなる混迷の予感である。
そんな火花散る空気を他所に、美和子さん本人は――仲の良い様子だとばかり思って、ニコニコと笑顔を見せていた。
……守護らねばならぬ、この笑顔だけは、有象無象の輩から、なんとしても守護らねばならぬ!