間話2 40秒で支度しな! と言われても準備を完遂出来る奴はそうそういない
1986年も6月に入り、学校生活にもようやく慣れてきた。勉強に部活に、そして健太と一緒に投資の基礎や英会話の勉強。未来に備えた知識を少しずつ教え込んでいく日々は、意外なほど充実していた。
そんなある日。絶対に見逃せないアニメ映画が公開された。
巨匠・宮咲監督の渾身の一作「天空の城ラヴュタ」である。
「……これは絶対に観るべき。人生変わるぞ」
俺は健太に力説した。
「え〜、ほんとぉ? そんなにすごいの?」
「ああ、間違いない。後悔させねえから。一緒に行こうぜ」
半ば強引にチケットを押さえ、健太を映画館へと連れ出した。
俺の個人的な感想で言えば、ラヴュタは未来で観たジヴリ作品の中でもベスト3に入る名作だ。
笑いあり、涙あり、恋愛要素あり、メカあり、スペクタクルあり。娯楽の全てが詰まった王道の一作。これをリアルタイムの大スクリーンで観られるなんて、逆行者の特権以外の何物でもない。
上映開始。ヒロインが空から落ちてくる衝撃の導入に息を呑み、ドーガ一家とのドタバタに笑い、大佐との対決に手に汗握り、そして最後の大団円。
気付けば俺も完全に作品の世界に没入していた。
そしてエンディング。胸に余韻を抱えながら横を見やると……
「……ひっく……ううっ……」
隣の健太が号泣していた。
「よ、良かった……本当に良かった……!」
嗚咽交じりに呟く姿は、あまりに純粋で、俺は思わず笑ってしまった。
ただ、その後が問題だった。
健太が、ジヴリの重度オタクになってしまったのである。
パンフレットを集め、ポスターを貼り、セル画やら設定資料集やらを買い漁る。授業中も「バルス!」とか叫びそうな勢いで。完全に沼に沈んでいた。
そして二年後。新作公開の時。
「なあ大輔! 『蛍の墓場』観に行こうぜ! 絶対名作だって!」
「待て、健太……! 名作なのは知ってる。知ってるが……やめとけ、それは心が死ぬやつだ……!」
未来を知る俺が必死に止める羽目になったのだった。
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