表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
未来知識で逆行した現代でスローライフを目指す  作者: Edf
第九章 資産倍増計画『プランB』発動
68/195

第六十話 卒業試験

 暑さに辟易した夏も過ぎ去り、暦の上では十月。秋らしい涼やかな風を感じる今日この頃です。どうも、大輔です。


 さて現在の俺は、自宅で山名ブラザーズの“生活環境改善卒業試験”を見守っている真っ最中です。


「誠司兄、味噌汁できたよ!」

「永遠、こっちも焼き魚終わった」

「あと残りはお米が炊き上がるまでね」


 中学三年の誠司と小学五年の永遠。まだまだ子どもと言っていい年齢だけど、彼らの希望で“卒業試験”なるものをやることになった。俺や小次郎は「早すぎる」と反対したんだが、二人の「ケジメだから」という強い意志に押し切られてしまったわけだ。


「うん、味噌汁美味しい」

「ね〜? もう家にいればいいじゃん〜。あ、この漬物も美味い」


 横で小次郎がまだゴネている。妹分たちが巣立ってしまうのが寂しいのだろう。


「焼き魚も完璧だな。塩加減も焼き加減も合格」

「この卵焼きも美味しい……」


 正直、俺の腕より上かもしれない。ちょっと悔しいが、それだけ本気で取り組んできた証拠だ。


「試験は合格。文句なしだよ」

「そうね。これだけできれば十分合格点。でも……」


 美和子さんが言葉を切る。おや、クレームか?


「あなたたち、まだ中学三年と小学五年でしょ。突然の体調不良や学校の宿題だってある。何より、まだ本来なら親の庇護下にある年齢よ」


 もっともな意見だ。誠司は表情を曇らせ、真っ直ぐ答える。


「ですが……これ以上、風間家にご迷惑をおかけするわけには……」


 隣で永遠もうんうん頷く。律儀というか、遠慮深いというか。


「あら? 私たちがあなたたちの存在で迷惑を被ったことなんてあった?」

「そうだそうだ!」


 小次郎がすかさず援護射撃。いや、お前は嬉しすぎて空回りしてるな。


「でも、二人の言いたいこともわかるわ。それなら、こういうのはどうかしら?」


 美和子さんが提案したのは――平日はこれまで通り風間家に通い、休日だけ自宅で過ごすという折衷案。俺も心配はしていたし、それなら納得できる。誠司を説得し、小次郎も「それがいい」と永遠を説得していた。


「……正直、心苦しいですが。皆がそう言ってくれるなら、平日はまたよろしくお願いします」

「はい。お願いします」


 ようやく二人も頷いてくれた。胸の奥に溜まっていたものがすっと下りる。


「晴彦さんには私から伝えておくわ。だから心配しなくて大丈夫」


 これで平日は変わらず。俺たちの生活リズムも維持されることになった。


「良かった〜! 誠司兄と永遠がいないなんて寂しいもんな」

「もう、小次郎兄ったら……」


 永遠も照れながら笑顔を見せる。きっと彼女も本心では嬉しかったのだろう。


「また迷惑かけるかもだけど、よろしくな大輔!」

「阿呆。俺がいつ“迷惑”なんて言った? いつまでいたって構やしねえよ。これからもよろしくな」


 こうして山名兄妹の“卒業試験”は、笑顔と安堵のうちに幕を閉じた。

 ――やれやれ、俺たちの賑やかな日常生活はまだまだ続きそうだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ