第五十六話 ネクスト会議室にて
沖縄旅行、楽しかったな。色々と問題はあったけど、結果的にはいい息抜きになった。――そう思ったのも束の間、俺は再びネクストの会議室に呼び出されていた。
理由はシンプルだ。バブル景気の波にうまく乗ったネクストだが、当初の想定をはるかに上回る2倍のスピードで成長してしまったからである。
株式投資、不動産投資、どちらのリターンも順調。本業もすでに百人を超える顧客を抱え、投資信託部門も活況を呈している。こうした結果、ネクストの株価も上昇の一途を辿り、会社の評価額はついに四十億を突破した。
……短期的なスパンでここまで大きくなるなんて、正直俺だって想定外だ。これ何かしら未来へ影響が出るんじゃないか? ぞっとしないんですけど。
「このような状況を受け、急遽銀行取引の見直しを進めています。資金繰り改善も同時に進行中です」
進行役を務める美香子さんも真剣な表情。副代表として日夜走り回っているのが伝わってくる。
「でも景気がいいこと自体は悪いことじゃないでしょ?」
「ワタシ達の給与も、見たことない金額になってるし」
真理子さんと奈々さんは、どちらかといえば楽観派。好景気をそのまま受け止めているようです。
「けれど、あまりに急な拡大は危険だわ。資金繰りが追いつかなければ致命傷になりかねない」
「そうね。改善が間に合っていないのが正直なところ、今の現状でしょう」
対してWゆうこさんは慎重派。堅実な意見にうなずく人も多い。
意見が割れる中、美和子さんが口を開いた。
「……確かに、私がイケイケで経営を進めてたのも有るけど、会社の拡大ペースは正直異常と言っていいわ、でもこのペースを落とせない理由があるの。大輔くん、お願い」
ついに俺にバトンが回ってきた。会議室の視線が一斉に俺へと注がれ、空気がぴんと張り詰める。
「はい、来年になりますが。――ネクストで利用可能な資金の大半を、とあるアメリカ企業に全額投資します」
「「「「な、なんですって〜!?」」」」
案の定、大合唱。全員が口をあんぐりと開ける。そりゃそうだ。今の日本経済は絶好調、製造業も世界的に強く、株も土地も右肩上がり。そんな状況でアメリカ投資? 常識では考えられない。
「ちょっと待って、どうしてアメリカ? 日本の株や土地で十分じゃない!」
「製造業だって順調なんですから!」
「わざわざアメリカ企業にリスクを負う意味がわかりません!」
真理子さん、奈々さん、優子さんが一斉に声を上げる。常識的に見れば当然だ。
だが、そんな中、とある状況に気付いたのか、その場を切り裂いたのは悠子さんの一言だった。
「……大輔。つまり今の日本は“バブル”なんだな?」
全員の視線が一斉に俺と悠子さんに集中する。
俺はため息を吐き、静かに頷いた。
――会議室が凍りついた。