第四十三話 弟子入りの条件
いつも閲覧有り難うございます、人物紹介更新しています、今後も人物が増える時に更新していきますのでよろしくお願いします
「はぁ、はぁ……ということは、先生の借金を肩代わりして、その支払いを“月謝”扱いにして弟子入りしたってことね?」
早苗が肩で息をしながら問い詰める。つい先ほどまでの組み手は、まさに鬼気迫るものがあった。
「はぁ、はぁ……はい、そういうことになります!」
健太は苦笑いしつつも認める。
「だからって百万円はやりすぎよ! 常識的に考えなさい!」
「確かに高かったとは思うけど、元は取れたと思うんだ。あれぐらいのインパクトがなかったら、絶対に弟子入りの許可はもらえなかったと思う」
俺も頷く。健太の今の腕前を考えれば、結果的に安い買い物だったのかもしれない。
「でも、どうすればいいのよ。私の貯金を全部かき集めても百万円なんて到底準備できないわ!」
「額の問題じゃないんだ。当時先生に借金があって、その全額を俺が“月謝”として支払った。それに度肝を抜かれて、驚きの後、大笑いして納得してくれた。それで弟子入りを許可してもらえたんだ」
健太は当時を振り返るように淡々と語る。
「だからもし本気で弟子入りしたいなら、先生が驚くくらいのインパクトを与えて納得してもらうことだね」
「ふむふむ……なるほど。でも、どうやって?」
早苗が腕を組んで唸る。そこで俺はふと口を挟んだ。
「なあ健太、その先生って酒は飲むのか?」
「うん。よく飲み過ぎて、俺が止めてるくらいだよ」
なら、上手くいきそうだな。俺は早苗の耳元へと顔を寄せた。
「ちょっと天童さん、お耳を拝借」
「な、何なのよ?」
「いいから、ちょっと来い」
ごにょごにょ……。俺は早苗に耳打ちする。
「えっ!? そ、それは……」
目を丸くする早苗。傍らで健太が怪訝そうに首を傾げる。
「何だよ、二人して隠し事かよ〜」
「まあ気にするな。それより来週、俺たちも藤林先生のところへ連れて行ってくれ。縁を繋いでおきたい」
「え〜っ、マジかよ……」
「誠司君はどうする? 一緒に行くか?」
「うーん、行きたいけど……今は忙しすぎて無理かな」
「無理はするなよ。また時間ができたときでいいさ」
こうして来週、俺たちも先生の道場へ伺うことになった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
そして一週間後。
「中々趣のある道場ね」
「趣っていうより、ボロっちい……」
「しっ! 聞かれたらどうするのよ!」
健太に案内され、先生の道場へ足を踏み入れる。だが、その建物は本当に古びていて、雨風に耐えてきた歴史を物語っていた。
ドン! ドン! ドン!
荒い足音が響き渡り勢いよく戸が開かれる。
「だから儂は弟子はもう要らんと言うたじゃろうが!」
現れたのは年季の入った道着姿の老人――藤林先生だ。その迫力に思わず背筋が伸びる。
「い、いててて! 先生、取りあえず話だけでも聞いてくださいって。向こうにはそう伝えてありますから!」
健太が押されながらも必死に食い下がっている。どうやら、なんとか俺たちを引っ張り出すところまでは成功してくれたようだ。
さてここからが本当の正念場だ。