第三十五話 年末ですよ皆さん
大輔です。気がつけば1987年も暮れ、大晦日となりました。
日経平均は二万一千円台で足踏みしてますが、来年年初から反発するのを俺は知っている。
だからこそ、いまのうちに四国電社やSomyをはじめとする銘柄をしっかり仕込んでおきました。ククク……こいつらが来年火を噴くとは、市場の誰も気づくまいて!
――っと、取り乱しました。本日は大晦日。買い出しに奔走中です。なにせ今日は由佳さんが久々に帰ってくる日。年越し蕎麦に正月用のお雑煮の準備と、やることが山ほどあります。
「よう、大輔! 久しぶりだな」
「お帰り、由佳さん。他のメンバーは?」
「みんな実家に顔出さなきゃでな。こっち着いた時に別れたよ」
彼女はバンを昴さんの家に置いてきたらしい。久々に師匠や仲間たちにも会いたかったけど、年末は仕方ない。
「ま、いいじゃねぇか。それとも私の顔だけじゃ物足りないってか? おぉ?」
けっ、相変わらずウザ絡みしやがって。
「いやいや、そんなことないっすよ。……それより今どの辺回ってるんです?」
「広島あたりだな。世の中広いわ、すげぇ奴らがゴロゴロいる。楽しくて仕方ねぇ!」
目を輝かせる由佳さん。
あ〜らま、顔キラッキラにしちゃってまあ〜
「曲の売れ行きはどうなんです?」
「やっぱり『逆境』がダントツ。けどミーコの新曲もじわじわ売れてて、あいつ今ホクホク顔だぜ」
ああ、師匠……あの必死な表情が報われて良かった。もうあんな火のつきそうな目で見られずに済む。
「そうだ、『逆境』の作詞作曲料とか本当にいいのか? あとクレジット名、どうする?」
「いいんですよ。あれは由佳さんが願ったからこそ、未来から知っていた曲を教えただけですし。名前は……そうだな」
誰かの本名を出すのはまずい。少し考え、口にした。
「“D”でお願いします」
イニシャルDだ!
「それでいいなら、そうしとくよ」
そんなやり取りをしつつ家に到着。家族と一緒に由佳さんを迎え入れ、皆で食事の準備を進めた。
「「「「いただきます!」」」」
食卓には年越し蕎麦やご馳走が並び、賑やかな声が弾ける。食後はゲーム大会。ポップマンのバクダンマンステージで由佳さんが本気でブチ切れてコントローラーを投げそうになるのを、小次郎と二人がかりで必死に止めたり。
やがて小次郎が眠気でふらふらしはじめ、なんとか除夜の鐘まで持ちこたえさせる。
そして――。
「「「「明けましておめでとうございます!」」」」
笑顔と笑い声に包まれて、1988年の幕が上がった。