第二十七話 咬ませ犬達の宴
ここでようやくバンドメンバーの紹介です
バンド名 underdog (アンダードッグ)
風間由佳 25歳 ボーカル
正直この人に超能力紛いの能力がなかったら色々話が成立しなかったと思います
朝川昴 23歳 エレキギター
この人がいた事で話が動かしやすかった
ミーコ(佐川美琴) 21歳 シンセサイザー
実は大輔の前では一言も作中喋っていなかったりする
ケイ(里中圭子)21歳 ドラム
全然目立たたせなかった作者の力不足
田原環 22歳 ベースギター
クール系女子、意外とツッコミが的確
最初にバンド名を『underdog』と付けたのは、ただ響きが格好いいと思ったからだ。
和訳なんて気にも留めなかった。けれどその後の私たちは、この名前に何度も苦しめられることになる。
場末のクラブに立てば、前座扱い。お客に笑われ「噛ませ犬バンド」と揶揄されたことも一度や二度じゃない。
最初の頃は実力不足もあって仕方がなかったと思ったが、腕を上げても状況は一切変わらなかった。
一番苦しんでいたのはミーコだろう。自分の作る曲が誰の心にも届かないせいだと悩み、何度も泣き崩れる彼女を見てきた。
一年が過ぎ、二年が経った頃には、バンドを畳むべきかと皆が口にするようになっていた。そんな時に転機が訪れる。
甥の大輔が未来の記憶を持っていると知らされたのだ。
荒唐無稽に聞こえる話だったが、彼の言葉の端々には確かな説得力があった。そして私は直感した。
――未来の曲を、私たちで演奏してみたい。
必死に説得した。姉の美和子の後押しもあり、何とか了承を得られた。けれど気づけば、いつのまにか主導権は大輔の手にあった。
プロデュースもスポンサーも、あれよあれよという間に決まり、私たちはただその流れに飲み込まれていった。
その後メンバーと話し合った時、一番強く反発したのは昴だった。彼なりにミーコを気遣ってのことだったのだろう。
だが、当のミーコはむしろ笑顔だった。「自分に足りないものを、大輔が補ってくれる」と。
ケイと環の二人は最初から受け入れていた。「由佳姉の甥なら信じられる」とあっさり言って。
紆余曲折はあったが、私たちは成長し、曲は完成した。自信を取り戻した今こそ――反撃の時だ。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
そして数日後。私たちは、かつて散々辱めを受けたクラブに再び呼ばれていた。前座という扱いは変わらない。
だが今は違う。ミーティングルームで輪になり、私は仲間たちに言葉を投げかける。
「ようやく……本当の意味で自分たちの舞台に立てるな」
「長かったな」
「苦しかった」
「もう二度と思い出したくない」
皆が静かに頷く。その顔にはかつての迷いはなく、燃えるような闘志が宿っている。
「ならば――教わったアレをやるぞ。全員、傾聴!」
一斉に姿勢が正される。私は胸の奥から絞り出すように叫ぶ。
「私たち噛ませ犬は、ついに自分たちの牙を手に入れた!」
「「「「Yes ma’amーーー!!」」」」
「そんな今だから言うぞ、まだ、あんな奴らに咬まれたままでいいのか?」
「「「「No ma’amーーー!!」」」」
「舞台の上でまた俯いたままでいいのか?」
「「「「No ma’amーーー!!」」」」
「ならば咬み返せ! ここを私たちの縄張りに変えろ! 今こそ我等が吠える時だ!」
「「「「YAーーHAーーーー!!」」」」
熱狂の咆哮が狭い部屋を揺らす。
胸の奥に溜め込んだ悔しさも、惨めさも、全部牙に変えて放ってやる。
――噛ませ犬の時代は終わりだ。
この瞬間、私たちはようやく「自分たちのステージ」に上がったのだ。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
照明が落ち、ざわついていた場内が一瞬静まり返る。次の瞬間、ケイのスティックがカウントを刻み、昴のギターリフが鋭く切り込み始めた、ベースが低く唸り、シンセが空気を震わせる。――その中心で、由佳がマイクを掴み、喉の奥からその声を叩きつけた。
「♪〜〜!!」
最初の一声で、観客がざわめきを飲み込む。
かつて「ドラ猫」と笑われた濁声は、今や力強さと艶を纏い、全てを圧倒する咆哮に変わっていた。
サビに入る頃には、前列の客が思わず拳を突き上げ、後列の観客も体を揺らし始める。誰もが気づいていた――これは前座の音じゃない、と。
曲が終盤に差しかかる。由佳が限界を突き破るように声を張り上げ、全員の演奏が一点で爆発する。
最後の音が響き渡った瞬間、静寂を破ったのは――割れんばかりの歓声だった。
映画フルメタルジャケット
1987年公開 日本公開は1988