第二十六話 赤い怒り⑤
PV10000突破しました
皆様いつも見て下さり有難うございます
本当は追加投稿したかったのですがストックががが
申し訳ない
とりあえず人様に聞かせられる程度のデモテープは完成したので、翌日それを抱えてボイトレチームに合流した。
「へ〜、曲初めて聴いたけど中々いい感じじゃん!」
「ソーデスネー、ストロングなビートをカンジマス」
ジョンソン先生も上機嫌だ。俺は歌詞カードを差し出し、宣言する。
「これが新曲の歌詞です。今日からはこのデモ曲を使って練習していきます」
「オーライ、ユカさん、ハジメマショウ」
二人はさっそくリハーサルに入った。
だが、一時間ほどで俺は眉をひそめる。――駄目だ。まるでセリフを音読しているみたいだ、心がまったく動かない。
「は〜いストップ!」
俺は手を叩いて二人を止めた。由佳さんとジョンソン先生が驚いた顔を向ける。
「すいません由佳さん、一度脳内を空っぽにして、今まで教わったこと全部忘れてください」
「「はっ?!」」
二人が困惑するが今のままじゃ駄目だ。
「このままじゃ“ただ上手いだけの歌”にしかならないんです。俺が欲しいのは――由佳さんの声にしか宿らない力です」
二人は黙り込む。俺は畳みかけた。
「まずは歌詞を二日間かけて徹底的に読み込んでください。この曲のモデルの生き様を教えますので、その背景を想像して。感情が満ちたら、頭を空っぽにして一気に吐き出して下さい」
マトモなやり方じゃない。でも由佳さんの直感なら、そう思っちゃうんだよね〜。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
そして二日後。
「……はい、その気持ちのまま。頭空っぽにして歌ってください」
準備は整った、後は野となれ山となれだ
由佳さんは静かに息を整え――おもむろに歌い出した。
「♪〜 ♪〜 ♪〜」
……その瞬間、背筋に電流が走った。初日とは別人。歌詞に込めた痛みや叫びが、濁声の奥から迸る。 流石由佳さん、いきなり変わり過ぎです。
「ウィルソンさん、今です、指示を!」
「Oh〜! ファンタスティック! ユーは魔法使いかい?」
「どっちかと言うと由佳さんの方が魔女っぽいと思うんですがね〜」
その後は今まではなんだったのか? ってくらい順調に進みだす。
「Wow〜!、コレこそマサにソウルボイス! ユカ、モット気怠ソウニ、コエニユラギヲ!」
「モット! ソウルフルニ! 歌詞ニアルヨウニ、タガヲハズシナサイ!」
「ラスト! コエヲキリサキナサイ!」
由佳さんの声が、スタジオを震わせる。あの独特のざらつきが、むしろ艶を増して響いていた。終わる頃には、二人とも床にへたり込んでいたが、その顔は達成感に満ち満ちていた。
――これなら間に合う。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
そして一週間後。由佳さんは、「歌姫の真似事」くらいは名乗っていいレベルに到達していた。
全員が合流し、ラスト三日間の仕上げに突入。スタジオに響いた由佳さんのシャウトは、爆発的なエネルギーを周囲に撒き散らす。
「大輔が言ってた由佳さんが合流すれば歌の真価が分かる、って言ったの心の底から同意するわ、て言うか気を抜くとついてけね〜」
「本当、由佳さんの声が入るとこんなすごい曲になるなんて……」
「信じられない! あのドラ猫声が、パワーアップしてるのに邪魔どころか魅力になってるなんて!」
全員が言葉を失い、ただ圧倒されていた。
「残り三日しかないんだ。呆けてる暇はないよ! 巻きでいくぞ、巻きで!」
さあ、ラストスパートだ。俺たちの“逆境”が、ついに完成へと走り出した。
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