第二十五話 赤い怒り④
「これが新曲の『逆境』になります。聞いて下さい」
ようやく――本当にようやくだ。ミーコさんにしごかれながら、なんとか形にした曲を、ついにバンドメンバーにお披露目する時が来た。
(♪〜 演奏中 ♪〜)
ピアノ独奏での試演奏が終わると、スタジオ内に一瞬の静寂が訪れる。俺は緊張しながら、皆の顔を順番に見回した。
「……なんだろう? いい曲だとは思うんだが、なんかこう、不思議というか」
「これ、わざと半音ずらしたりしてますよね? 意味があるんですか?」
「うん、それわかる。下手ってわけじゃないけど……なんだろう、もどかしいんだよな」
ケイさんも環さんも、首をかしげながら率直に感想を口にする。
コクコクと無言で頷く昴さんとミーコさん。……まあ、そうだろうな。
正直ピアノ独奏だけじゃ、この曲の魅力は二割も伝わらないわな、皆いい感性してるぜ。逆境の肝はあくまで“声”。由佳さんが歌うことで初めて、この曲は完成する。
「この曲はですね、ある特定のシンガーが歌うことで初めて成立する、ちょっと珍しい曲なんです。普通の歌手が歌っても魅力は出し切れません。だからピアノだけではピンと来ないのも当然なんですよ」
全員が「?」顔をしているが、まあいい。皆、由佳さんが合流すれば、1発で理解するはずだ。
「皆さんにはまず、一週間以内に“声なしバージョン”のデモテープを仕上げてもらいます」
驚きながらも、メンバーは頷いてくれた。
「完成したデモを由佳さんのところに持っていって、彼女もそれで練習を進めます。ジョンソン先生曰く、二人の相性は抜群らしいので、一週間もあればある程度の形になるはずです」
「じゃあ、その後は?」と環さんが小説を閉じて口を開く。
「その後は皆さんにさらなるクオリティアップをしていただき、合宿終了三日前に由佳さんと合流。そこから三日間で曲を完成させます」
「す、スケジュール過密すぎないか?」
昴さんが眉をひそめる。だが俺は肩をすくめて笑った。
「知ったこっちゃありません。巻きで行かないと巻きで! それでは今日から始まるデスマーチ、皆で乗り切りましょう!」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
――数時間後。
「ギター! リフが全然効いてない! 開幕ソロは見せ場でしょうが! 何チンタラやってんの!」
「ドラム! 弾幕薄いよ! 何やってんの!」
「ベース! リズムは安定してるけど音圧が足りない! ルート音のバランス崩れてくよ!」
「師匠、シンセいつも最高です。肩でもお揉み致しましょうか? あっ、今お飲み物をお持ちしますね♪」
「「「そこいい加減にしろ!!(怒)」」」
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