第二話 とりあえず落ち着いて考えてみた
さて、落ち着いて考えてみよう……。
私、風間大輔。49歳、バツイチ独身。ホワイトでもブラックでもない、そこそこグレーな営業課システム部門の営業部員だ。
ついさっきまで旧地元での営業先へ向かう途中だった俺は、どうやら交通事故に巻き込まれた――はずだった。
だが、気が付けば体は少年。トンネル出口で自転車に跨がっていた。
「……な、何故に子供に戻っているし?」
手足は細く、声は高い。しかもこの姿は――中学入学を控えていた頃だ。証拠は足元の愛車、ピカピカの新品「神風號」。間違いない、俺の初めてのスポーツサイクルだ。
混乱はしている。しているが……どこかで見覚えのある展開に脳が勝手に答えを出す。
「……これって、もしかして逆行転生ってやつ?」
なろう系で読んだぞ、このシチュエーション。30代の頃からだいぶお世話になっていたから間違いない。俺は詳しいんだ!
いや、待て。落ち着け俺。
確かに物凄く意味不明な状況ではあるのだが、これ……ひょっとして、ものすごいチャンスなのでは?
なにしろ俺には、未来の知識がある。投資系の出版投稿等を夢見て30代からせっせと調べてきた、投資や経済動向の情報が脳内に(ある程度は)蓄積されているのだ。
「これを利用すれば……もしかしたら大儲けできるんじゃね?」
しかも今は1986年。日本経済の最盛期、バブル経済が膨れ上がる直前の、まさに助走期!
株も、不動産も、土地も、何を買っても値が跳ね上がる伝説の時代。ここでこのビッグウェーブを華麗に乗りこなせれば、俺の未来は約束されたも同然。
未来の営業部の下っ端戦闘員みたいな生活とは、完全にオサラバできる。退職金を気にして年中頭を抱える必要もない。
いや、むしろビリオネアになる大チャンスじゃね〜か!
妄想が妄想を呼び、体中に電流が走る。
「漲ってきた〜〜! 投資の王に俺はなるッ!!」
思わず某◯◯王の如く叫んでしまった。
……が、その瞬間。
「ねえ、あのお兄ちゃん変!」
「若い時とはそういうものよ」
振り返ると、近くを歩いていた親子連れが、思いっきりドン引きした表情で俺を見ていた。
「……」
真っ赤になった俺は、急いで自転車のペダルを踏み込む。行き先は、当時の実家。
頭の中では、未来のバブル相場と、俺の華麗なるサクセスストーリーが脳内再生されていた。
「待ってろよ、未来! 俺は平民をやめるぞ〜!」
……そう息巻きながら、果たして本当に上手くいくのかは、この時の俺には知る由もなかった。