第一話 俺は何処? ここは誰? (絶賛混乱中)
未来知識で逆行した世界でスローライフを
新作始めましたよろしければ
https://ncode.syosetu.com/n9384ip/
2023年某月某日。
クソ暑い日差しの中、俺は営業で久しぶりに旧地元へと戻ってきていた。場所はA県C市K町。かつて生まれ育った町だが、訪れるのは数十年ぶりだ。
駅前に降り立ってすぐ、タクシーを捕まえようとしたものの――
「この時間帯で全然タクシーいないって、マジっすか!」
思わず声が出た。平日昼下がりだというのに、タクシー乗り場は閑散としている。仕方なく、営業先まで歩いて行くことにした。運動不足を少しでも解消できると思えば悪くはない……そう思ったのも束の間だった。
「ぜ〜は〜、ぜ〜は〜、……お、おいおい……なだらかな坂道登るだけで、このザマかよ……」
息は切れ、汗は滝のように流れ出す。ここ数年、不規則な生活とほぼゼロの運動習慣が祟り、体力はすっかり落ちきっていた。仕事以外の時間は自宅警備員の真似事のような日々。自分でも笑えないくらいの不健康ぶりである。
旧街道沿いに伸びるトンネルへと差しかかる。子どもの頃から残る古い造りのトンネルだ。ひんやりとした空気に救われつつも、足取りは重い。
息を整えながら、俺はふと昔の友人のことを思い出す。
「……そういや、この先の工務店に勤めてる健太に会うのも十数年ぶりか。あいつの娘のさやかちゃんも、もう母親だって聞いたし……そりゃ俺も年を取るわけだわ」
苦笑しながら歩くこと十分。ようやく出口の光が見えた、その瞬間だった。
前方から走ってきた一台のトラック。最初は車線をふらついている程度に見えたが――
「おいおい、あぶねーぞ。酔ってんのか?」
そう思った矢先、トラックは急ハンドルを切り、こちらへ一直線に突っ込んできた。
「嘘だろ、おいっ!」
避ける間もなく、俺の視界は真っ暗に閉ざされた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
――次に意識を取り戻した時、俺はトンネルの出口に立っていた。しかも、なぜか自転車にまたがった状態で。
「……は? トラックは? 俺、どうなった? なんで無傷?」
目の前には「カエル石」と呼ばれる地元の奇岩。子どもの頃、誰もが一度は肝試しに訪れる場所だ。その前で自転車を支えたまま、俺はただ呆然と立ち尽くしていた。
「夢……か? いや、でもこれ、どういう状況……? てか俺、自転車なんて持ってきてないし」
パニックを紛らわせるように声を出した後、違和感に気付くまでに数秒かかった。
耳に届いた声は、明らかに元の自分のものではなかった。
高く、まだあどけなさの残る少年の声だったのだ。
「……お、おい……マジかよ!?」
思わず喉を押さえる。震える指先に触れる首筋は、以前よりもずっと細く、肌にははりと弾力があり、視界に映る腕も、十数年前の自分を思わせるほどにすらりと細い。
鼓動が早鐘のように鳴り響く。
俺は理解せざるを得なかった。
――トラックに轢かれたはずの俺は、数十年前の少年の姿に入れ替わってしまったらしい。
まるで時間を遡ったかのように。
カエル石の前で立ち尽くしながら、俺はただ唖然と呟いた。
「……なんで俺、若返ってるんだ?」
初めての投稿になりますお手柔らかにお願いします。