黒玉事件・解決編③
ヤバい、可笑しすぎて笑いが止まらんぞ
唖然としていた張俊瑋だが徐々に顔を真っ赤にしていく
「き、貴様〜、何が可笑しい!!」
激怒する張俊瑋の後ろで崙老師も静かに殺気を高めていく
ヤバい、本当不味いって、ようやく笑気の治った俺は慌てて
『いや本当にすいません、悪気がある訳じゃ無いんです』
『ならば何が可笑しいと言うのだ!』
ふ〜、俺は一息付くと
『そうですね、恐らくですが華僑の上層部は今後コンピュータの世界に置いて、MSが持つ影響力、オフィスPC市場の独占的影響力等を鑑みて、現在の価格の10倍程度と認識したのではないのですか?』
顔を顰めつつも、もう隠す気も無くなったのだろう張俊瑋は渋々と頷く
『そうですね、そこの部分だけ見ればその価格でも間違いじゃないと思います』
ゆっくりと頷く張俊瑋
『でも、PCを利用するのはオフィスだけではありませんよ』
『個人ユーザーの影響力か?そんなもの、たかが知れてるだろう?』
やはり、この時代ではまだこんな認識だよな〜
『そうですね、今までだとゲームとかですか、個人の利用価値としては少ないでしょう』
『ならば』
俺は失礼にならぬ程度に、手を前に出して話を遮る
『Wind95に標準搭載されているインターネット接続機能をご存知ですか?』
『何だそれは?』
やはり知らないよね〜
『電話回線を使い、ダイヤルアップ接続にて世界中の相手とWebサイト等を通じてやり取りするサービスです』
『それが何だと言うのだ?』
『現状では趣味の公開や仲間とのやり取りが精々でしょうか、ただ今年に入りyahorというWebサイト検索サービスサイト等が生まれ、その勢いは爆発的に伸びています』
『……』
『今は個人的な利用に過ぎませんが、今後サービスは確実に進化していくかと思います』
『例えばWebサイトという仮想空間を使ったショッピングサイト、映画館や、旅先の情報を映像を元に調べたり、ネットを使った銀行サービスとかも生まれるかもしれない』
『投資の世界においては、そのリアクションスピードやサービスの複合化において、現実世界以上の有用性を生み出す事でしょう』
『そうやって徐々に広がっていくこのインターネットと言う波は、その過程に於いて世界中の人間を虜にしていき、そのサービス内容も加速度的に進化していくものと考えます、また海底ケーブルなどのインフラ整備も進み、やがて世界中の情報は、この巨大なインターネットとというネットワークで網羅される事になる、そうして膨大に膨れ上がったインターネットという怪物は、確実に世界中のあらゆる産業を飲み込み始めます』
ゴクリ! 誰かが息を呑むが、誰かはわからない
『では再度お聞きします、以上の観点を踏まえた上で、私の持つMSの資産、10年先どれ程の想定額になるか、お聞かせ願いたい』
『……10兆円』
計算を終えた張俊瑋が、静かに答えたその金額の大きさに、花蓮と老師も驚愕する
『ふむ、額としてはその位でしょうか、先程笑ってしまったのもお解り頂けたかと』
未来での株価とも一致する
一瞬、狂おしい程の欲望に目がギラつき始める張俊瑋だったが
『やめた方が良いですよ、C国に扱え切れる代物じゃありませんて』
『どう言う事だ?』
『インターネットの有用性は薬になるだけじゃありません、毒にもなり得るって事です』
『何故だ?』
『インターネットの有用性を理解したユーザー達は、いずれ受動的ではなく積極的に利用しようとする筈です、中には個人で情報を売り買いしたり、無料で貴重な情報を公開する事で人気になる人間も現れるでしょう』
頷く張俊瑋
『その過程において、既存のマスコミが柵に囚われない個人のミニコミに喰われ始めます、もしそうなった場合、マスコミを使った国民の統制は制御できなくなる、共産主義を掲げるC国がそれを許容出来るとは思いません』
『そ、それは…』
『仮にそうなった場合、インターネットを持ち込んだあなた方は、本国からスケープゴートとして排除されかねませんよ』
項垂れる張俊瑋、まあC国が広めなくてもいずれインターネットは世界中に広まるのは黙っておこう
こうして、突然の来訪者の襲来を何とか凌ぐ事が出来た俺は、ようやく東京支部を後にして大吾さんの様子を帰りがてら見に行く事にしたのだが……
「大輔付き合え!」
「へ?良いですけど何に?」
「明日行われる、T国大使館での李登弧前総裁の歓迎式典にだよ!」
「は〜?!」