黒玉事件・解決編①
「やあ、こんにちは、またお邪魔させて貰いますよ」
「いらっしゃると思ってましたわ」
「こんにちは、数日ぶりですね!」
渡会警部補が話を伺いにやってきたようだ。
「しかし無茶苦茶ですわ、こっちも対応に大わらわです」
「すいません、お騒がせしたみたいで」
「お騒がせどころの話ではありませんよ、上の方から物言いが急に入って、警察庁の方も対応に四苦八苦しております、困った事をしてくれましたな〜」
「申し訳ありません」
花蓮がソファーを指し示し、渡会警部補がソファーに座ると開口一番
「あの時にきっちり釘を刺しておいた筈なんですがね〜、騒動がちょっとばかし大きくなり過ぎた、流石に看過出来ないと言う事で、少々お付き合い願いませんかな?」
少々物騒な気配をたて任意同行を促す渡会警部補だったが
「釘を刺すですか? むしろ動いてくれって言われた気がしたんですが?」
「私もそう聞こえたわよ?」
「……冗談はよして下さい、何を根拠にそのような」
「大吾さんと李玉玲さんを炙り出す為ですよね?」
「……」
「なので貴方の思惑通りに乗ってあげました、綺麗に踊ってあげたではありませんか、貴方も見てたのでしょう?」
「……何の事かわかりませんが?」
「貴方が大輔の後を尾行してたと言ってるんです、まさか知らないとは言いませんよね?」
渡会警部補は、若干の冷や汗を浮かべるも何事もなかったかのように
「何を言ってるのかわかりませんな、証拠でもあるというんですか?」
彼の問いかけに、花蓮は受話器を取り内線を繋ぐと
「いいわよ、入って貰って」
コンコン! 「失礼します」
そうして入ってきたのは、鬼瓦のような顔をした人物と数人の警備員
「おう、久しぶりだな大輔」
「久しぶり、武光さん」
彼は武光雄三、現在ネクスト東京支部の警備部長をしている
彼は早苗の最初の武術の師匠であり、藤林道場入門の際に、快く送り出した中々に漢気のある人物である
昨年、バブル崩壊の不景気で道場を畳む事になった際、途方に暮れてた彼の状況を知った早苗の口利きで、俺が警備部に引き抜いた人物だ
「で、どうでした?」
「ああ、人員を交代しつつしっかりと付けさせて貰ったよ、大輔の後を追う彼をね」
「という訳です、どうでしょう?」
俺が手品のネタを明かす様に手を広げる。
「……いつから私を疑っておいでで?」
「強いて言うなら、最初からですかね〜」
「それは…… 一体何故?」
「貴方、警察庁広域捜査課って仰いましたよね、ですが警視庁広域捜査課は本当は実在しない部署ですよね、いやこれは語弊があるか、実在はするが存在しないの方が正しいかな?」
まあ偉そうに言ってるが、全部花蓮の知識の賜物である
「……」
「表向き広域捜査員を名乗ってる貴方、本当は捜査1課の人ですよね、それなら単独行動はおかしいですよ、まずそこが引っ掛かりました」
「なら何故身分を偽ったのか? 1人で行動してるのを誤魔化す為、尾行中も何処かへ電話連絡するだけで、他の警察官の方と協力もしてなかったようですし」
「では、そのような状況で貴方が俺を煽って動いて貰おうと思ったのは何故か?、隠れて俺を尾行する事で2人の動向を掴もうとした、では何故貴方は彼等の情報が必要だったのかですが」
「……」
「日本側からC国に情報を流してた影の協力者は貴方ですね?」
その言葉に彼は観念したのか、大きく溜め息を吐き拳骨を額に添える。
「やれやれ完敗ですな、僅かな情報からそこまで把握されてしてしまうとは」
諦めたように笑顔を向けた渡会警部補は、その後、俺からの連絡を受けた泰子さんの知らせで駆けつけた公安警察によって引き取られていった。
引き取られる際、申し訳なさそうに頭をかいた彼は、詫びを入れるように俺達に頭を下げていったのが印象に残った。




