第十四話 難敵現る①
「やあ、大輔。元気にしてたか」
爽やかな笑みと共に現れたメガネの男――岡崎康二。健太の兄で、二人兄弟の長男である。
有名な進学高校を優秀な成績で卒業し、一浪の末に東大合格。現在は大手出版社に勤める、将来において同社の専務取締役にまで上り詰め、C市においては立身出世の象徴と言われる人物だ。
……ただし、その中身は基本的には温厚ではあるものの、いざとなれば冷徹で陰険な面も隠さず。清濁併せ呑む事も問わない、インテリヤクザのような一面も持っているのを俺は知っている。
「兄貴、今日は大輔を呼び出して何の用?」
普段は兄にべったりの健太も、今日ばかりは警戒していた。康二兄は意外に渋ちんなんだが。そんな人が高級レストランで“奢り”なんていうのは、それだけで不自然だからだ。
「まぁ落ち着け。先に腹を満たしてからにしよう」
久しぶりの高級ランチ。俺も異論はなく、豪華な食事を済ませ、珈琲を啜った頃、ようやく康二兄が口を開いた。
「実はな、大輔。お前には礼を言わなきゃならん」
「えっ? 俺に?」
差し出された封筒を開くと、中から出てきたのはNTDの株券二枚。
「ちょ、ちょっと待って!? 康二兄がなんでNTD株を二枚も!?」
「実は健太から聞いたんだ。お前と投資の勉強をしていて、“NTD株は有望だ”ってな」
健太がバツの悪そうな顔をしている。確かに俺もNTDの話題を隠しはしなかったのだが。まあバブルの核心部分だけは伏せさせていたから問題はないと思うが……。
「でも三百二十万は結構な負担だよね。あのケチ――じゃなくて倹約家の康二兄にしては、大胆すぎる投資じゃない?」
「おい、全然隠せてないぞ」
「いや〜、でも驚きだな。一体どういう風の吹き回しよ?」
「……あの馬券の一件だよ」
「……えっ? まさか康二兄、馬券まで買ったの? あの渋ち――もとい、守銭奴の康二兄が?」
「悪化してるぞ表現が! はぁ〜、全くお前は……」
康二兄は苦笑しながらも目は笑っていない。
「考えてみろ。ちょっと前まで鼻垂れ坊主だったお前が、いきなり二百万円を使った馬券の一点買いだ。普通じゃない、だから二十万ほど相乗りさせてもらった訳だ。で、その利益でNTD株を買った」
「なるほどねぇ。で、本題は?」
「――出来れば、俺を組ませて欲しい」
そう言って株券を俺の前に差し出す康二兄。どうやら“契約書代わり”ということらしい。
……へぇ〜、コレまた随分と俺を買ってくれるじゃないか。
数か月前なら一考の余地もあったかもしれないけど、だけど、今はもう俺には“自分の城”があるんだよね。
俺はおもむろにポケットから名刺を取り出し、テーブルの上に置く。
「改めまして――私、投資コンサルティング会社、投資アドバイザー担当の風間大輔です」
名刺を差し出すと同時に、少し挑発的な笑みを浮かべる。
さて、康二兄。あんたは俺を“コマ”にしたいのか、それとも“対等なパートナー”にするつもりだったのか、まずはそこからかな?
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