黒玉事件⑧
大吾視点
俺達が連れてこられたのは、一目見て豪邸と思われる屋敷だった、中に入るとそこは中華式の豪華絢爛な内装で彩られている。
『やあ、黒玉姫、随分と美しく育ったじゃないか?』
『あら、張俊瑋じゃない、華僑三大家の若き御当主様のお出ましって訳? 貴方も随分と麗しく成長したじゃない、内面とはえらい違いよね?』
『ははは、容姿だけとは言え褒めて貰えるとは光栄だね、それじゃあ早速だが本題に入ろうか、君には僕の本妻として張家の一員になって貰い、本国とT国の架け橋となって欲しい』
『寝言にしては随分と呆れた話ね、私の記憶が確かなら、貴方には既に3人の奥様がいらっしゃったと思ったんですけど?』
『張家の当主としては、まだもの足りない位さ、それに君が望むなら第一姫として迎えてやっても良い』
『こう言うの日本では、寝言は寝て言えって言うのよね、確か、顔でも洗って出直してきたら?』
『ははは、こいつは手厳しい、でもこちらとしても時間がなくてね、こういうやり方は好きではないのだが……』
張俊瑋はおもむろに懐から拳銃を取り出し、銃口を玉玲に向ける。
思わず飛び出しそうになるが、玉玲が右手で静止する。
『脅しにしてはいきなり過ぎない? それに私の玉の肌に傷つけても良いのかしら?』
『流石にこの程度では君を言い聞かせる事は出来ないか、仕方ないね』
そう言って奴はため息を吐くと、銃口の向きを俺に変え
パン!
「ぐわぁ〜〜!!」 『大吾?!』
あまりの激痛に一瞬気が遠くなりそうになる。
『安心したまえ、足を撃ち抜いただけだ、しかしこれ以上強情をはるなら、次は無い!』
空気がピンと張り詰めたような緊迫した状況で、流石の玉玲も表情が諦めに落ちそうになったそんな時、突然大扉が開き
「も、申し訳ありません、し、侵入者が…」
その報告に来た人間がそのまま崩れ落ちる、その背後から武装した大男が現れ
『お嬢〜、随分と遅れて申し訳ない、居場所を把握するのに遅れましたが、意外な味方に助けて貰いまして!』
『龍さん、ナイスタイミングよ!』
更にその大男の背後から人影が入ってくる
「大吾さん、遅れてごめん!」
「お、遅いぞ、大輔、俺なんて足撃たれちまったぞ」
突然の再開に、お互い喜んでいると
『ちっ、表の連中は何をやっているんだ』
せっかくの詰みの盤面が、ひっくり返った事で苛つきの表情を浮かべる張俊瑋
玉玲の護衛の龍から、逆に銃を向けられ動けない状況に
『立場が逆転したわね、なら答えさせて頂くわ、貴方の妄言に付き合ってる程、私暇じゃ無いの、帰らせて頂くわ!』
輝くばかりの笑顔で、張俊瑋をフってやる玉玲だったが、張俊瑋は笑顔を崩さない
『悪いが、この程度で勝った気になって貰っても困るな?』
『あら、負け惜しみ?』
『そうじゃないさ、崙老師!』
彼が叫んだ瞬間、突然目の前に現れた老人が玉玲の護衛の大男を弾き飛ばす。
『再度逆転という訳だ、老師とりあえず全員制圧せよ』
命令を受けた崙老師だったが、その場から全く動こうとしない
『どうした、崙老師?』
「くっくっくっ、なんとなんと、崙白崔と再び相まみえようとは、大輔、感謝するぞ!」
その言葉と共に、また1人の老人が気配を露わにする
『……日本戦鬼か、久しいな』
『大戦以来ですな、戦場で戦死したと聞いたが、やはり隠遁しただけであったか』
『出来れば再度会いたくはなかったのだが……』
『私は再会出来て嬉しくてたまりませんなぁ、あの日以来、不自由になった右手が歓喜で疼きますわ!』
そうして2人の老獣の気配が膨れ上がった。