黒玉事件⑤
「「「はあ〜〜〜……」」」
俺達3人とも盛大に特大の溜め息を吐きだす。
そりゃあ世が世なら本当のお姫様であってもおかしくないのだ、事の大きさに思わず溜め息も漏れるというもの。
「という訳でして、被害届が出た以上こちらとしても捜査しない訳にもいかず、その際捜査線上に浮かび上がってきたのが彼という訳でしてね」
「ですが、大吾さんは誘拐犯などではない!」
「でしょうな〜」
「それでしたら」
俺が食ってかかると、刑事さんが右手を前に出し静止する
「実はこの件について、もう一つ妙な事がありまして」
「?」
「外務省宛に極秘裏にですが、彼女を暫くの間日本政府にて保護して欲しいとの依頼があったとの事でしてね」
「んな!?」
「ちょっと待って下さい、それならT国側からの被害届けは解除されたんですよね?」
俺が驚いてる中、花蓮が被害届の件で問いただしたのだが、刑事さんは首を振り
「それがですな、T国大使館側からは、本日も早く犯人を捕まえて彼女を渡せ、と矢の催促でして」
余りの状況に、俺達が絶句すると
「どうも今回の件、T国側には2つの命令系統が存在しとるという訳ですわ」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
混乱した状況を整理する為、少しの間お茶休憩をとった
「マリちゃん、有難う」
「いえ、どうぞごゆっくり」
秘書の方が退出する頃、お茶を飲んでようやく俺の灰色の脳細胞が動き出す。
「つまり、T国には彼女を確保したい勢力と、日本政府に保護を依頼する二つの勢力があるという事ですね?」
俺の回答に刑事さんが頷く
「どうにも厄介な状況でしてな、こちらとしても動くに動けず」
俺が頭の中で考えを巡らせてると
「渡会警部補、貴方はどうお考えですか? プロの意見をお聞かせ下さい」
花蓮は刑事さんの意見を聞きたいようだ、頭を掻いた刑事さんが
「これは私見なんですがね、大使館側の勢力なんですが、どうもかなり焦っているような… いや私のカンなんですがね?」
成る程ね、片方はかなり事を急いているようだ、これは早い事動いた方が良さげだな、俺は花蓮の目を見て頷く
「動くの?」「ああ」
俺達が目線だけで会話していたのだが
「あの〜、ちょっとすいません、出来ればなんですが、こちらとしては軽挙妄動は謹んで頂きたいんですがね〜」
いきなり釘を刺され、俺達が困惑すると
「風間大輔さん、大吾さんを調査してく上でなんですが、ネクスト準備室というサークルの件で、貴方の事も少々調べさせて頂きました」
「げっ!」
徐に手帳を取り出して、中を確認しだす渡会刑事
「T大応援団謎の壊滅事件、これ貴方が関わってますよね?」
「?!」
やべ〜、俺の事、色々と調べられてるようだ、だがちょっと待てよ、あれは後輩を助けようとした花蓮の◯っぱいを揉みしだいたあの馬鹿が悪い
「大学OB政治家の、謎の失脚についても貴方が関わってますよね?」
いや突然しゃしゃり出てきて、上から目線で詫びとして後輩ちゃんと花蓮も差し出せと言われたら、全力だろうそれは!
俺のコネと権力を総動員して叩き潰してやったわ!
心当たりがあり過ぎる俺と花蓮は、思いっきり視線を逸らす。
「はぁ〜、本当に軽挙妄動は謹んで下さいよ」
仕方なく俺と花蓮はコクコクと頷くしかなかった
「あ〜それともう一つ、K大テニスサークル謎の崩壊案件と言うのも」
あっ、それはマズイ
「ちょっと大輔、私それは聞いてないんですけど、どういう事?!」
大吾さん主催のK大女子大生との合コン絡みの事件なのだ、バレたらヤバいなんてもんじゃない。
「さ、さあ、なんの事でせう?」
目が泳ぎまくってる俺を捕まえて、ぎゃあぎゃあ言い合う俺達を見る渡会刑事は、苦笑しつつ
「ま、まあなんです、国際問題になりかねない案件です、自制をお願いしますよ」
そう言って席を立つ刑事さんを見送り2人になった室内で
「で、どうするの?」
「動くさ、他でもない大吾さんの件だ、人任せにしてもしもの事があれば、俺は絶対後悔するからな」
「わかった、警備部には私から連絡しておくわ」
「頼む、それじゃあ後の事はよろしく!」
俺が颯爽とその場を立ち去ろうとすると
「そうそう、K大テニスサークルの件は事件の後、たっぷり聞かせて貰いますからね!」
やばい、コレは絶対逃げられないコースだ!