黒玉事件②
「ねえ大吾三等書記官殿、俺等って高級パブで豪遊するって話じゃなかったでしたっけ?」
「あ、ああ確かそんな予定だったな〜」
「あっれ〜?おかしいな〜、大学時代にいつも奢って貰った吉乃屋にいる気がするんですが?」
「まあ綺麗な姉ちゃんはちゃんと隣にいるだろうが」
俺達の視線の先では俺等の分込みの特盛汁だく卵付きの牛丼3人分をあっという間にたいらげている絶世と言っていい美女の姿があった
『は〜っ、驚いたわ牛丼ってとっても美味しいのね〜、ねえ、もう一杯おかわりしていいかしら?』
『あ、ああ、牛丼くらいなら構わんよ』
『やった〜、ねえ、マスターもう一杯おかわり頂戴!』
注文を聞いても言葉のわからない厨房のバイトの子は困惑する
「ああ、すまないね、食券は買うから特盛汁だく卵付きもう一杯おかわりよろしく頼むよ」
「かしこまりました〜」
バイトの子が注文を受けすぐ様準備に走るのを横目に
「中国語ですか?」
「ん〜にゃ、北京語かと思ったけど、台湾華語だね発音に違いがある」
お〜、下っ端とはいえ流石は外交官僚様、言語の差異は速理解するのな、俺がニヤニヤしながら大吾さんを見つめてると
「んだよ、一応極東方面志望なんだから勉強しただけっつ〜の」
バツが悪いのか照れてるのか顰めっ面した大吾さんを揶揄いながら時を過ごし待つ事10分
『は〜、ご馳走様、とっても美味しかったわ♪』
この女、マジで牛丼汁だく特盛4人前たいらげやがった、どんな胃袋してやがる。
俺等が白い目で見てるのに気付いたのか
『何よ、ちょっとここ2日ばかしマトモに食べてなかったんだから仕方ないでしょ!』
その後、腹を満たした女に大吾さんが色々聞き出しているのだが、どうも要領を得ない
あそこで倒れてたのはお腹が空いて動けなくなったかららしい、なら自宅への連絡先や場所を聞こうとしてもガンとして口を割らない、ただ3日後にT国の大使館へ連れて行けの一点張りだ。
見かねた大吾さんが身分を明かし、自分は日本の外交官で貴方を日本国で保護しても良いと説得、渋々頷いた彼女だったがそれでも3日は大事にしたくないから公にせず匿って欲しいとの事、それならばと彼女の正体を聞き出そうとするも3日後まで待ってと釘を刺される。
「3日か〜、さてどうするかね〜」
「お困りならウチの系列のホテルで部屋取りましょうか?」
「んだよ、ネクストは東京に進出したばかりだろうに、もうホテルなんて買い取ったのかよ?」
「ウチの東京室長が優秀なようでして必要になるからと物件を幾つか見繕ってたらしくて」
不動産バブルも弾けて良さそうな物件が値崩れしてたのも大きかった
「ネクスト東京室長ってお前の嫁さんだろうが、自慢か!」
「嫁さんになるのはまだ先ですけどね」
そう来年、俺の大学卒業を機に結婚式を挙げる事になってたりする
「結局自慢じゃね〜か、まあホテルの件は有難い、悪いが頼むわ」
その日そうやって別れた大吾さんと、翌日以降音信不通になるとはこの時は想像もしていなかった。