第十三話 大きな波を乗り越えて
NTD株、どうにか三十株ほど確保できました。
美和子さんが、退職金と貯金から生活費を差し引いた分を支援してくれたおかげでもある。彼女の決断力と行動力には頭が上がらない。
この株を担保に金融機関から借入を行い、三月には会社を法人化。面倒な確定申告や登記の手続きは、美和子さんの知り合いの司法書士に一任した。俺一人なら絶対に詰まっていた部分だ。頼れる仲間がいるというのは、心強い。
さらに四月には、美和子さんが前職から引き抜いた五人の女子社員が入社予定。ようやく、会社としての形が整ってきた。
「ふぅ……ほんと、ようやく一息つけたわね!」
書類の山を片付けながら、美和子さんが笑顔を見せる。
「顧客の取り込みの方はどう?」
「ふふふ。NTD株が想像以上に盛り上がってくれたから、顧客は二十人を超えたわ」
「まじか!? ってことは……年間売上、七千万超え!?」
思わず声が裏返った。俺たちが始めたばかりの投資コンサル会社が、いきなり中小企業の中堅並みの売上を叩き出しているなんて、正直現実感がない。
今やテレビでは連日、NTD株のニュースで大騒ぎだ。「五倍は固い!」「いや、十倍も夢じゃない!」と煽り立てる評論家まで出てきて、株素人まで熱に浮かされたように証券会社に殺到している。
「顧客には、三百万前後で確実に利確するよう伝えておいて。これ以上は責任を持てないから」
「もちろん。既にそう説明してあるわ。でも……本当にいいの? テレビじゃ“ここからが本番だ”なんて声も多いのに」
美和子さんの目に、不安と期待が入り混じる。
「……美和子さん、テレビに振り回されすぎ。俺が保証できるのは三百十万まで。この株はそれ以上は絶対に保証しない」
「わかってる。大輔君を疑うわけじゃないけど……世間の熱気が想像以上で、正直びっくりしちゃって」
彼女の言葉はもっともだ。だが、この異常な熱が巡り巡ってバブルを膨張させていくのだ。俺にとっては“知っている未来”のはずだが、こうして目の前で過熱を体感すると、妙な不安を覚える。
「大事なのは“確実に利益を取ること”だよ。それに、第二弾の情報ももう用意してあるしね」
「……さすがね。じゃあ顧客の期待は裏切らないようにしないと」
その日は、小次郎君が帰ってくるまで、美和子さんと今後のプランについて打ち合わせを続けていた。順風満帆。そう思える一日だった。
だが、その夜。
「大輔君、健太君から電話よ〜」
「ん? 珍しいな、夜に電話なんて」
受話器を取ると、すぐに健太の声が響いた。
『もしもし? 大輔? あのさ――康二兄ちゃんが、一緒に食事したいって言ってるんだけど』
「……え?」
康二兄からの“お食事のお誘い”。
だが、胸の奥に走ったのは喜びではなく、得体の知れないざわめきだった。
「……何か、嫌な予感がするな」
実は当時NTT株は抽選で1株しか手に入らなかったそうです
今から訂正するのが物語的に難しい為、この世界では購入できたという事でひとつ
作者の知識不足ですごめんなさい