第十話 家族未来会議②
少し雰囲気を落ち着かせる為、お茶休憩に入る。
湯呑みに立ちのぼる湯気を眺めながら、美和子さんが深いため息を吐く。
「とんでもない話ばっかりで、正直ちょっと疲れたわ」
「ふふっ、まだまだ本気で話せば、もっと洒落にならないネタもあるんだけどね」
「……今はもうお腹いっぱい。時間をかけて、少しずつ聞かせてもらうわ」
そう言って口をつけたお茶の香りが、張り詰めた空気をやわらかくしてくれる。俺もようやく肩の力を抜いた。
少し和んだところで、別の話題を切り出す。
「そういえば、やっぱり美和子さんって、会社を辞めるんだよね」
「……ええ。その辺も知ってるって事ね、最初は家庭に入ろうかとも考えてたの、でも今の会社に居続けるのは正直もう無理そうなのよ」
その声色はいつになく重かった。詳しく聞いてみると、去年から上司が別の人に変わったらしいのだが。だがその人物が筋金入りの女性蔑視主義者で、女性社員への扱いが急激に悪化したのだという。
「会議で意見を言っても、“女のくせに”って一蹴されるのよ。営業成績がトップでも、“女が外回りするな”って言われる始末。女性社員は皆、肩身が狭くて……針の筵って、まさに今の会社の事ね」
美和子さんは苦笑いしたが、その奥に沈んだ怒りと悔しさは隠しきれていなかった。
彼女は仲間の女性社員を庇おうと必死に立ち回ったらしいが、それが逆効果になり、今や女性陣は揃って転職活動を余儀なくされているのだという。
「……なるほどね」
俺は腕を組み、頭の中で色々と思案する。
未来を知っているからこそ見えてくるアイデアはいくつもある。だが、今の環境とタイミングに合わせなければ意味がない。
その時だった。まるで天啓のように、ひとつのプランが閃いた。
「美和子さん、会社を辞めた後、やりたい事ってある?」
「うーん……正直、今は特にないのよね。目の前の転職で精一杯で。でも、このまま流されて決めていいのかも悩んでて……」
その迷いを聞きながら、俺の中で確信が固まっていく。
彼女の営業力、人脈、そして未来を知る俺の知識。組み合わせれば、きっと――。
「話は変わるけどさ」
わざと軽い調子で切り出す。
「俺って今、ピカピカの中学生な訳じゃん?」
「……また突然ね。まあ外見だけ見ればそうね」
「酷っ! でもまあそういう訳で、資産を運用するにしても一苦労なんだよね。 未成年ってだけで行動が制限されるし、何かやろうとしても即応性がない。正直、すっごく歯がゆい」
実際その通りだ。銀行口座の制約、投資口座の年齢制限、契約上の不便さ――どれも「中学生」という壁に阻まれる。
「……で? 何が言いたいの?」
美和子さんが怪訝そうに眉をひそめる。俺は真剣な眼差しで彼女を見据えた。
「美和子さん、会社経営とかに、興味はおあり?」
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