第八話 うちの大輔君
うちの大輔君は、ちょっと不思議な子です。
小学生の頃までは、どこにでもいる普通のやんちゃ坊主でした。棒切れを振り回しては「怪人退治だ!」なんて叫んだり
時には……まあ、妹の由佳が言うところの「棒でう◯こ突いて喜んでた」ような、本当に目を離せないようなただの子供だったのですが。
それが中学生になって数日経った頃でしょうか。ある日突然、正座どころか土下座をして、こう言い出したのです。
「母ちゃん、自分の未来に投資して欲しい」
当時、私は営業の仕事でそれなりに結果を出していました。だから“人を説得する”という行為には多少の自信があったのですが……
その私を息子は理路整然とした説明にて、気づけば私は納得させられていたのです。
金額がどうこうと言うのではありません。息子が必死に未来を語り、きらきらした目で「やらせてくれ」と頭を下げてくる――その姿に対しどうしても無下にはできませんでした。
それ以来でしょうか。急に料理を手伝ってくれるようになったり、弟の小次郎の世話もよくしてくれますし、家の掃除や買い物まで進んでやってくれるようになりました。
助かると思う反面、「もう大人になっていってしまうんだな」と寂しくなることもありました。
妹の由佳も驚いていて
「つい最近まで鼻垂らして棒でウ◯コ突き回していた糞ガキが嘘でしょ!?」
「中身、宇宙人と入れ替わってるんじゃないの?」
と本気で疑う始末、確かにそう言いたくなる気持ちもちょっと分かるくらい、変わっていたのです。
そうして12月に入ったある夜に、大輔君はとうとう「変わった理由」を口にしました。
「母ちゃん、信じられないかもしれないけど……俺、自分には“49歳まで生きていた記憶”があるんだ」
最初はもちろん信じられませんでした。けれど、私しか知らないことまで次々と語り、必死に訴える姿を見ているうちに、「もしかしたら」と心が揺れ始めました。
極めつけは――今、私が交際している沢見さんのこと。
「母ちゃん、その人は暴力癖がある。母ちゃんも、小次郎も殴られる。俺は止められなくて、あの時の自分は泣きながら見てるしかなかった」
何よりその後、小次郎が他所の大人に対し怯える様な素ぶりを見せるようになった事が何より辛かったと、そう言って大輔君は涙を流しました。
「信じてもらえなくてもいい。でも……母ちゃん、お願いだからあの人とは付き合わないで下さい」
子供が流す涙。未来での絶望を背負った涙。それを見た瞬間、私は彼の言葉を疑う気にはこれっぽっちもなりませんでした。
そして同時に、泣いている大輔君の顔に、久しぶりに“昔の大輔君”を見つけた気がして――思わず抱きしめていました。
その後、沢見さんにはすぐ別れを切り出したのですが。
「理由がわからない。なぜだ!?」と問い詰められたので、子供たちのことを考えての決断だと正直に伝えると、彼は信じられない言葉を口にしました。
「どちらかの両親に預ければいいじゃないか! 最悪、施設に預けることだってできるだろう?」
気づいた時には、私の右ストレートが彼の顔面に炸裂していました。……コホン。
その後、正式に別れたのですが、一ヶ月も経たないうちに、彼が上司の娘と婚約したと聞き、その話を大輔君に愚痴ると
「大丈夫、今年中にあいつの会社は不渡り出して倒産するから、その上役の娘と婚約したんなら一蓮托生じゃねーか、ザマ~〜!」
と大笑いしていました。……ちょっと育て方を間違えたのかしら。
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