2話「悪魔、来たる」
深夜、"仕事"を終えた俺は自分らに与えられている部屋に戻る。部屋といっても独房みたいなもので狭いスペースに2段ベットがかろうじて押し込められているといった程度の環境だ。
窓を開けて外の景色を眺める。夜の深い時間にも関わらず、この街の灯りは絶えることがない。
帝国一の歓楽街"ミュレッセイ"は今日も様々な欲望の入り混じった熱気の残滓を漂わせていた。
この街は海峡を挟み隣国のリムーシャ共和国と接しており、帝国だけではなく共和国を始めとするいくつかの国から多くの人々が集まっている。
「本当に、まるで大違いだな……帝都とは」
距離的には鉄道で一日以上かかる確かに遠い場所だが……自分的にはもはや世界の裏側にでも来てしまっているような気分だ。
窓辺から離れて自分のベッドに倒れ込み目を閉じる。
「もう……疲れた」
いっその事、もう自殺でもしてしまおうかと何度も考えた。だが──
俺には一つ心残りがあった。 それが自ら命を断つことを躊躇わせる。
「せめてここから、この街から抜け出せれば……」
そっと、足首に付けられている"枷" に手を添える。酷く冷たい感触が伝わってくる。
コレがある限りはこの街から出ることはできない。魔力を封じているとともに、対象者を特定の地に縛り付ける効果もある。
「俺は……死ぬ勇気すら持てず、このままこの街で朽ちていく運命なのか……」
嫌だ、そんなのは。ここで終わりたくない……。
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夢を見た。あの日からもう何度も見た夢だ。
「────嘘だ……嘘だ!!」
悲痛な叫びをあげる俺。その俺を冷めた目で見る周りの連中。
あれは学園の連中だ。 ちくしょう、俺をそんな目で見るな。
場面は変わる、次に目に入ってきたのは……。あぁ、あの時か。
「……つぁ、はぁ……はぁ…………」
目に映るのは暗い独房のような空間。ここはたしか学園の地下深くだったか──。
あそこはとにかく寒かった。狭く、寒く、汚い。そんな劣悪な環境に一週間ほど幽閉され俺の身体はボロボロだった。
ギギギという鉄を引きずるような音とともに独房の鉄扉が開かれる。
「はっ……無様な姿だなエリック」
心底バカにしたような声、俺は顔を上げる。
「ユージス……!」
光を背にして立つその男は……その男こそかつて俺が一番の友だと思ってた男────
「何故だ……何故だ!!」
俺はその一番の友だと思ってた男に、ハメられた。
「何故って? はっ……決まってるだろ!? お前が気に食わなかったからだよ!!」
そこから奴は、奴がどれだけ俺を妬み憎み嫉妬しているのかをどしゃ降りのごとく吐き出していった。
正直、当時の俺は意識も朦朧としており奴がどんな事を言ったのか事細かくには覚えていないが、それでも奴の裏の顔を突き付けられ酷く動揺したのは覚えている。
……まぁ、俺にとって重要なのはこの場面じゃなく────
「このまま、お前を死なすのは芸がない」
散々自らの感情をぶち撒け満足したのだろう。落ち着き払った声で奴はそう呟き、懐からなにかを取りだした。
「コイツがなんだかわかるか?」
懐から取り出された小瓶。怪しく光るサラサラとした液体が印象深かった。
「コイツは禁薬指定された劇物でな。えーっとなんだったか……二、三年前だかに暴れてたある教団が作ったらしいんだが」
小瓶の蓋が開かれる。
「ま、飲んでみればわかるさ」
そうして俺はソイツを飲まされる。抵抗しようとしたが、もはや俺にそんな体力は残されていなかった。
「────あ、あァ」
喉を通り過ぎる焼けるような痛み。揺らぐ意識の中で「じゃぁな、もう二度と会うことはないだろう」という奴の声が聞こえたのを覚えている。
この日から俺は三日三晩、身体を襲う激痛にのたうち回ることになる。そうしてそれが収まったとき────
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