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1-8 二つの人種



 この世界には二つの人類が存在している。


 体毛が薄く、つるんとした肌が特徴的なノルマレ種。彼らには攻撃的な牙や爪も無く、体付きも個体差が小さい。肌の色や顔の凹凸の違いからおおよそ三種に分類されるものの、基本的には皆同じような容姿をしている。


 対するビスティア種は、一般的には獣人と呼ばれている人種だ。個々の身体的差異が少ないノルマレ種と対象的に、獣人は親兄弟であったとしても見た目が似通うことは余りない。全身が体毛で覆われた者もいれば、鱗を持つ者、強靭な尾を持つ者。大きな爪や牙を持つ者等、実に多種多様な容姿、能力を持っている。


 圧倒的大多数のノルマレ種と、身体能力に恵まれた極小数のビスティア種。

 見た目とそもそもの身体能力に大きな差はあるものの双方同じ赤い血の流れる人類だ。


 だが二つの人種間にある溝は、けして小さなものではなかった。圧倒的多数のノルマレは、より身体能力に長けるビスティアを恐れ、疎み、抑圧しようとしている。対してビスティアは数の暴力の元で自分達を差別し、ヒトとして扱う事がないノルマレをけして快く思っていなかった。


 差別。畏怖。

 積み重なった長い歴史の重み。


 表向きにはどれだけ共存を謳おうと、二つの人類の関係性はとても歪なものだった。


 ノルマレ種とビスティア種。

 人間と獣人。


 日ノ斗亜ひのとあ王国は、そんな二つの人類が肩を並べて暮らす、小さな小さな東の島国だった。




「ん……ッ」


 目が覚めた時、彼女は倉庫のような場所にいた。

 辺りは薄暗く埃臭い。天井付近には蜘蛛くもの巣、白くなった部屋の隅の床にはネズミの足跡が確認出来る。突然引き込まれたスイートルームにしてはなかなかな待遇だ。


 唯一ある小窓はとても高い位置にあり、チロルの身長ではとても届きそうにない。そこから見えている空の色がまだ青から変わっていないため、長時間寝こけていた訳ではなさそうだ。


「痛……っ」


 蹴り飛ばされた際に打ち付けたのだろう、後頭部が鈍く痛んだ。両腕を拘束されてしまっていては、痛む頭に手を当てられないではないか。

 全く、不便極まりない。


(しかし参ったな……人間が奴隷商人に捕まるなんて、笑えないジョークにも程がある)


 チロルを攫ったのは獣人達ではなかった。つるんとした丸い耳と特徴のない顔立ち。彼らはチロルと同じ人種、ノルマレだ。

 チロルは普段、獣人に見間違えられるような格好をえてしている。恐らくその格好のせいで、獣人と間違えられさらわれてきたのだろう。


 このクニでは一部の条件下で暮らす獣人を除いて、多くのビスティア種には人権が認められていない。生きた獣人の売買も、法のもとで当然のように行われていた。


 チロルの不在に気が付けば仲間達が助けに来てくれるだろうけれど、公演に穴を開ければギムにドヤされかねない。逃走経路を探すべく、チロルは部屋中を見回した。


「あれ……」


 その時になって彼女は、自分が入れられた檻から数メートルの所に、同じような鉄格子がある事に気が付いた。


 薄暗い倉庫の中、丸まった黒い毛玉が目に留まる。

 こちらから見ると大きな毛玉が檻に入れられているようにしか見えないけれど、あれは間違いなく獣人の体毛だ。


「ねぇ」


 声を掛けてみたものの、反応は無い。


「聞こえてるんじゃないの? 無視されるの、嫌なんだけど」


 そこまで言うと檻の中の毛玉がのそっと動いた。


「…………オレに言ってるのか?」



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