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4-16 ヤマダチ


 日ノ斗亜王国の東都で暮らすヒト々の安全を守る警察組織の中でも、特に獣人関連の事件を取り扱う部隊は【ヤマダチ】と呼称される。


 普段は己の担当地区で治安維持に努めるヤマダチ達だが、彼らは現在、その中でも優秀な者が選別をされこの東都西部にあるこのスギマミマチへと召集がされていた。


 東都警察獣害対策特殊作戦班、略称【獣特班】。


 当初彼らは獣人への国家反逆を抑制するための研修の名目で集められたのだが、ヤマダチがスギマミに招集されて直ぐにその事件が起きた。


『烏丸別邸爆破事件』を皮切りに、貴族を標的とした獣人によるテロ行為は、この短期間の間に既に三件も発生していた。


 警察本部は獣人テロの早期解決と鎮静化を目的として、招集されていたヤマダチ達で特殊作戦部隊の結成に至ったのである。それが前述の獣特班だった。


 最もこれがただのテロだった場合、通常通り担当地区のヤマダチ達が事件解決に当たったのだろう。研修で集められた先鋭達で新たな組織を新設せざるを得なかったのは、獣人達の攻撃対象が市民ではなく貴族だった事が大きな要因となっている。


 要するに政治的な圧力が強く掛かり、王政府より「とっとと獣人共を黙らせろ」とのお達がきているのだ。


 幸いな事に現状被害が出ているのは貴族の血統ではなく、その縁者や関係者ばかり。だがこのままではいつ尊い血に犠牲が出るか分かったものではないと、上も冷や汗をかいている。


 東都北部の担当区より研修にやって来た立花ベシア二曹もまた、何故かそのまま転属と部署異動を言い渡され獣特班のメンバーに加わった一人だった。


「例のコクダに送られたサーカス団、証拠は掴めたのか?」

「証拠はこれからどうにでもなる。兎に角なんらかの結果を出しておかないと上層部が煩くて敵わないんだって、この間上条三佐が頭を抱えていたよ」

「また適当な……」

「お偉方を黙らせるのには、それなりの方便にも必要なのさ。ま、俺としてはその方が楽で助かるけどな」


 肩を竦めてみせる梓二曹の言葉に、べシアは深い溜息を零した。


「全く……」


 梓とベシアは元々幼馴染と言う間柄。更には何故か職場も同じ腐れ縁。ベシアは梓のこの適当な振る舞いはどうにかならぬものかと今日までに何度頭を抱えた事だろう。歯に着せぬ物言いをするならば、梓は本当に適当な男なのだ。


「お前さんは深く物を考え過ぎなのさ。昔っから、クソが付くほどの真面目なのがお前の利点で欠点だ」

「……」


 どうやら向こうもベシアと同じような事を考えていたらしい。長らく行動を共にしてきて思考回路が似通ってしまったのだろうか。


 二人は署内の廊下を歩きながら話をしていた。

 出身である北のマチは一応東都に属されてはいるものの酷い田舎だった。ボロボロになったテツノキの中でヒト々が身を寄せ合って暮らす光景こそが日常だった彼にとって、この傷の少ない建屋は新鮮なものだった。


「結局、あのサーカス団を家宅捜索しても何も出なかったんだろう?」


 ベシアが尋ねると、梓は「一応、火薬は見つかってるぜ」と窓の方に視線を向けた。


「火薬って……サーカスに使われる花火じゃないか。あんな物じゃ、掘立て小屋くらいしか爆破出来ない」

「それでも、一先ず報告出来る内容の確保にはなった。一時的にでも貴族さんの口が封じられれば、上はそれで構わないのさ。あのサーカス団を餌に上層部の口を塞いでおいた上で、真犯人を捕まえればなんの問題もない」

「……」


 梓はそう言っているけれど、ベシアの眉間の皺は深いままだった。


 事の発端となった別邸爆破事件。


 その容疑を掛けられ、獣人のみで構成されたサーカス団であるシルクスのメンバーの身柄が拘束された。そして座長である明星ギムは現在、テロ扇動と国家反逆罪の嫌疑を掛けられている。


 お偉方を黙らせるだけの方便だと梓は言うけれど、それならばどうしてわざわざシルクスのメンバーはコクダマチの収容施設送りにまでされているのだろうか。


 シルクスは真犯人が判明するまでの繋ぎ、仮に真犯人が捕まったところで相手は獣人。警察側の誤認逮捕を公にするくらいならばいっその事まとめて銃殺刑に処してしまっても構わないと言うのが上層部の見解なのだろうけれど……。


(これじゃあ彼らはただとばっちりを受けただけじゃないか……!)


 一度舞台を見た贔屓目を抜きにしても、調査資料を見た限りではシルクスはテロ活動とは縁遠い組織のように思われた。むしろ全くの対極にいて、行き場の無い獣人達の保護を行い社会活動に貢献しているような組織だ。


(それに、あの子は……)


 爆破テロの発生よりも随分前、ベシアはこの一座に所属する少女と接触している。買い取ったチケットは、結局仕事との兼ね合いで無駄にしてしまった。


(逮捕者リストの中に彼女の名前は無かった。そしてあの子の苗字は座長と同じ明星……)


 この事をベシアは上に報告していない。堅忍実直を心情としている彼ではあるが、あの少女の事を思うととても口に出せなかった。


「ベシア」


 梓に声を掛けられ、ベシアは思考の世界から顔を上げた。困ったようにこちらを見て笑う彼には、自分の思考回路なんて透けて見えてしまっている事だろう。


「お前の事情は分かっているつもりだが、あんまりあちらさんに肩入れするなよ」

「肩入れなんて。俺はそんなつもりじゃ……」

「上手くやろうぜ、兄弟。北部の田舎から遥々お呼ばれしたんだ。俺達だって……」

「おっと失礼」


 会話に夢中になっていたベシアは、反対側から廊下を歩いてきた人物と肩をぶつけてしまった。相手が上官である事が分かり、彼の顔色が青くなる。


「も、申し訳ございません!」


 慌てて頭を下げるベシアに、相手は「お気になさらず」と声を掛けた。


「しかしお気をつけて。相手が相手では上官相手に肩をぶつけただけで報告書騒ぎになります故」

「本当に申し訳ございません。黒百合二尉!」


 頑なに頭を上げない立花と背筋を伸ばして敬礼をする梓を一瞥すると、黒百合ラコロ二尉は「それでは自分は失礼します」と一言残して去っていった。


「はぁ……」

「相手が黒百合二尉で助けられたな」

「全くだ」


 黒百合がいなくなった後で立花は大きく息を吐き出しながら胸を撫で下ろす。


「そう言えば立花、例の話は知ってるか?」

「以前から黒百合二尉が上層部と掛け合っていたあの法案の事か?」

「このタイミングであんなものが施行されたら、仕事がサボれんと思ってな」

「お前はいつもそればかりだな……」


 梓の不真面目な態度に、ベシアは眉間を抑える。


「そう言えば……今はそれどころでは無くなってしまったが、今回の研修を企画したのも黒百合二尉らしいな」

「ああ、そう言えばそうだったな」


 各地のヤマダチ達の持つ獣人への対抗手段の共有と、獣人達への認識を擦り合わせる事でヤマダチ全体の結束と高め、凶悪な獣人犯に立ち向かうための研修……と言うのがそもそもべシアや梓がスギマミマチを訪れた当初の理由だった。


 その発案をした事からも黒百合二尉の仕事への意欲と意識の高さが伺える。


「本当にお美しい方だな、黒百合二尉は」

「バ……ッ、上官だぞ。第一、彼は男性だろう」


 梓の言葉にべシアはギョッと目を見開いた。だがそんな彼に梓は「馬鹿はお前だ」と呆れた様子で溜息を零す。


「中性的な容姿をされてるなって話だよ。ミステリアスって言うか、不思議な美しさがあるなって」

「……」

「まあ正直……黒百合二尉ならイけそうだけどな」

「お前がいつか不敬罪に問われても、俺は知らんからな」


 ヘラヘラと笑う梓に呆れかえりながらも黒百合ラコロが去っていた方向を眺めるべシア。

 確かにミステリアスと言う言葉は彼にマッチしているのかもしれないけれど……。


(何だろうか、誰かに似ている気がする……)


 黒百合二尉の纏う特有の雰囲気は単に『ミステリアス』なんて言葉で片付けられるものでは無いように感じられた。そしてその言葉にしがたい何かには、見覚えがある様な気がしてならなかった。


 しかしながらそんなべシアの考えは直ぐに吹き飛ばされる事となる。


「そこの二曹共! 油を打っている暇があるならとっとと書類を寄越さんか!」

「も、申し訳ございません!!」


 上官からの呼び出しに若いヤマダチ達は慌てて飛んでいく。


 昨今のテロ事件のせいであちらこちらから寄せられた書面の山を前にさせられたべシアが、それ以上その違和感の正体について頭を悩ませる時間は与えられなかった。


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