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2-8 愛玩用の奴隷


 獣人の奴隷を買う目的の三つ目。

 それは愛玩用、つまりペットとしての飼育目的。


 値段の高い見目の綺麗な獣人をわざわざ購入し、維持する。そんな芸当は貴族等一部の金持ち連中しかや出来ないため、そもそも愛玩奴隷自体あまり一般的に広まっているものでは無い。


 元奴隷の過去を持つ者が多いシルクスであっても、その殆どは労働奴隷出身者ばかりなのもそのせいだ。愛玩奴隷はそもそもの母数が圧倒的に少なかった。


「まさか、バニラさんも……?」

「十二まで貴族の屋敷にいた。高価なシルクのおべべ着せられて、毎日ニコニコしてる事が生きる為の仕事だったよ」


 兎に角自分の容姿が嫌いだったとバニラは語る。


「元々はどこにでもいる普通の印無しだったんだ。家族がいて、貧しくてもそれなりの生活をしてた。でもある日突然、人間達に襲われて。両親は逆さ吊りにされ首を切られ、そのまま毛皮を剥ぎ取られた。牙も爪も、眼球も皆取られちまった。だけど幼い俺だけは、見た目が人間好みだからって理由で生かされて。ヒト売り業者経由して、貴族の屋敷に買い取られてった」

「……」


 甘い言葉を吐きながら飼い主は麻酔で自由を奪い、何度も折檻をして暴れないように教育を施した。分厚くて重い鎖が取れることもなく、次第に抵抗自体を諦めて本物のペットに成り下がった。

 笑っていれば生きられた。

 可愛げさえあれば殺されずに済んだ。

 兎に角、死にたくなかった。


「あの時の屈辱は今でも忘れられねぇよ」


 飼い主はバニラを可愛がり、毎日のように綺麗な服を着せてその毛皮を櫛で解いた。与えられる食事はきっとそこらの一般人が食べる物より上質だっただろう。

 だが一度反抗的な態度を取れば薬を打たれ意識が混濁する中、激しい折檻を受けた。血が滲む中で笑えと命じられ、出来なければ意識が飛ぶまで殴られた。

 だから彼らが望むように、バニラは高い声で猫のように鳴いていたのだ。


 当時のバニラな死なないためには、愛らしい人形でいる以外に方法がなかったのだ。


「バニラさんはどうやってシルクスに?」

「十二の時、獣人のテロ組織に屋敷が襲撃された。屋敷の人間は皆殺し。混乱に上じて逃げ出したところを、ギムさんに拾われたんだ」


 語られるバニラの半生を、オルトは黙って聴いていた。きっと彼だからこそ、思う事もあるのだろう。


「それからがまあ大変でよ。人形みたいにニコニコしてるだけが仕事だったから、洗濯も掃除もやり方が分からなかった。力加減も分からないから、見様見真似でやろうとして色んな物をぶっ壊した」


 今のオルトがそうであるように、当時のバニラもまた生きる事そのもののハードルの高さに苦労させられた。


 ただでさえ愛玩奴隷は母数が少ない。まさかチロルが連れてきた新人が、自分と似たような境遇を持っているとはバニラも思わなかった。

 だがここまでの彼を見てもしやと思い、声を掛けたのだ。彼もまた自分と似たような半生を送ってきたのではないかと、ピンと来て。


「日常生活に関しては慣れるまでの辛抱だな。だが今のお前が裏方ってなると……当たり前だが、普通の事が出来ないお前には厳しいものがあると思う」


 それはオルト自身、痛感してるだろう。


「このマチでの公演はもう直ぐに終わる。そうすればまた、次のマチで新しい幕が開く」

「……?」


 この話をするのなら今が絶好のタイミングだとバニラは考えていた。今なら移動に合わせて生活を切りかえて、新しい日々を送りやすくなる。


「なァオルト。お前さん、こっち側に来ないか?」

「こっち、とは……?」

「舞台の上に立つ方……つまり、キャストだよ」


 オルトからしてみればバニラの誘いは青天の霹靂だっただろう。黄金色の瞳が零れそうなほど大きく見開かれる。


「舞台キャスト……オレがですか?」

「お前のヒト並み以上の身体能力は舞台でなら活かせる。どの演目に出るのかはおいおい考えなくちゃならないが、その容姿ならシンプルなアクロバットでも映えるだろう」

「……ッ」


 これはバニラ自身がギムから言われた事のあるセリフが織り込まれていた。

 自身の容姿を嫌っていた彼に昔、ギムがくれた言葉だ。


『貴族の愛玩奴隷になる程に恵まれた容姿だって、舞台の上でなら武器になる』


 あの言葉にバニラは救われた。己の容姿は相変わらず疎ましい。こんな顔の何が良いのか分からないけれど、それでも自分の強みとして受け入れられるようになった。


「貴族にすら欲せられるお前の容姿は、スポットライトの下でこれ以上ない強力な武器になる」

「……ッ」


 ヒトよりも長い手足と尾。黒く、少し青みがかったような光り方をする毛並み。

 本人がどう思っているのかは知らないが舞台で映えるのは間違いない。


「俺たちと一緒に舞台に立とう、オルト」


 バニラが差し出したその手には、不安げな瞳が向けられていた。



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