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1-11 商品の値打ち



「だから悪かったって。すげぇ勢いで走って逃げようとするから、止める為に必死だったんだよ。……お、なんだ。ちゃんと目ぇ覚ましてんじゃねぇか」


 部屋に入ってきた男達二人はチロルが体を起こしている事に気が付くと、ニヤニヤと口角を上げる。口元から覗く黄色い歯に、チロルは怪訝な表情を浮かべた。歯くらい磨け。


 男の一人がチロルの入れられた檻の前にしゃがみ込む。品定めをするように体を舐め回す下賎げせんな視線に、不快感が込み上げた。


 警戒の色を濃くしていたチロルだったが、男はおもむろに檻の鍵を開ける。


「いッ!?」


 頭に被っていた帽子ごと髪の毛を掴まれ、檻の外に引き摺り出されると、そのまま勢い任せに床に放り投げられた。


「何するんだよ……ッ」

「おうおう威勢が良いね。じゃじゃ馬をしつけるのが好きな変態は一定数いる。こう言うのは良い金になるんだよな」


 頬を片手で鷲掴わしづかまれた。無理やり上体を起こされた上で顔を覗き込まれる。これではまるで検品じゃないか。


「それにしても妙な目ん玉してんな。紫かと思ったが、見る角度で微妙に色味が変わってやがる。初めて見るな。なんの獣人なんだ?」

「何でも良い。毛色の珍しい奴、より人間に近い良い奴なんかは高値が付きやすい。良い拾い物をしたな。だがそんなことより印がないかどうかは確認をしておけよ。腕を隠してるって事は基本的に印無しるしなしだろうが、念の為だ」

「そん時は切り落としちまえば良いだろ。どうせ愛玩用にされるんだ。腕の一本無くたって誤魔化しが効く」


 話している内容に背筋が凍った。彼らは本当に獣人の事を、体良く売れる金稼ぎの道具程度にしか思っていない。生きながらに皮を剥ごうが牙を抜こうが、何も思っちゃいないのだ。


「さーてどれどれ? 妙なもん付けてんな……」


 チロルを押さえつけていた男は、無理やり彼女のアームカバーを剥ぎ取ると、左の二の腕を確認した。


「……っ」


 当たり前だがそこには何も無い。ある筈がなかった。


 基本的に獣人は人権を持たずにこの世界に産み落とされる。だが所定の手続きを踏めさえすれば獣人にも人権が与えられ、その証拠として左の二の腕に国旗の、日出ひいずる翼の焼印が入れられるのだ。


 このクニでは人権の無いケモノ同然の扱いを受ける獣人を印無し、人間と同じ権利を有する獣人を印付きと読んでいる。


 とは言ってもチロルの腕に日出る翼の焼印なんてある筈がない。それを入れられるのはあくまで人権が保障された獣人。

 ノルマレであるチロルには、そもそも生まれた時から人権が与えられていた。焼印での証明なんて端から無用の長物なのだ。


「おいどうした。まさか本当に印持ちだったのか?」

「印はねぇ……だが、この腕は……」


 腕を確認した男に動揺が走る。


 アームカバーを外れた事で晒されたのは白くて細い、少女の腕。獣人特有の体毛や鱗なんてある筈もない。つるんとした肌が露出していた。

 人に見た目が限りなく違い獣人がいるとは言っても、これはいくら何でも……。


「お前、まさか……!」

「ノルマレだよ。拐う前にちゃんと確認するんだな、バーカ!」


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