表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/187

13 運命の8日目

俺が起きったら8日目



昨晩、マリアンヌから新しい名前をもらった。流石に「俺はおっさんで貴国の英雄様の雄二で~す」と言われたら、今までの関係は絶対壊されるでしょう。今の俺はマリアンヌからこの世界用の新しい名前「アイリス」が貰った…うん、アレだ、恥ずかしい。


この一週間、俺とちょくちょく過ごしたメイド7人組にも、色々と良くして貰った。だから、メイド隊には先日完成したハンカチをプレゼントしたし、最後にマリアンヌにもようやくハンカチを渡した。


一応、全部作る時はみんなが幸運に恵まれるようにと念じた、意味はないが、ほんの少しの気持ちだ。


起きてから一週間、色々と準備した。思った以上に、楽しい修練生活だ。


昨晩、マリアンヌとの対話で彼女の反応を見たとき、まさかマリアンヌが本当に自分の危ない未来を感じ取っていたとは思わなかった。できる女の勘はホントにすごい。多分、俺が本当の王女ではないことは、最初の1~2日ですでにバレたと思う。


ですが、マリアンヌはあの地獄から俺を救ってくれた恩人だ。この一週間、彼女とはたくさん話した。彼女はいつも無表情だけど、実はいい人だ。だからこそ、お互いの生きる確率を上げるために、俺の計画に参加してもらおうと決めた。



---------------------------------------



朝、マリアンヌはいつも通り俺を起こした。


普段ならすぐに魔力を放出するのだが、今日は夜まであの“水玉”をキープする予定だ。“水玉”は体中で段々と大きくなり、泳ぐように動いている。そのせいで身体中に針が刺さっているような痛みが襲ってくる。痛いが、多分神経系統は魔力暴走時に痛覚がすでに麻痺しているのだろう。今は我慢できないレベルではない。この“水玉”も俺の魔力だ。念のため、魔力には余裕を持たせておいた方がいい。


「おはようございます、姫様。今晩パーティーがありますので、他のメイドたちはパーティーの方に回りました。だから今日は自分だけでご奉仕致します。」

「おはようございます、マリアンヌ。昨晩話した“例の件”、成功率を上げるために、私の計画に入りませんか?」

「え?」


他のメイドがいないのは、明らかにマリアンヌの手配だろう。今日一日、他のメイドさんがいないのは好都合だ。一緒に朝食をとりながら、俺は小声で脱走計画をマリアンヌに話した。昨晩考えた内容だ。もし役者がひとり増えれば、そのメリットを説明し、さらにマリアンヌも自分の脱走方法を俺に説明してくれた。


驚いた。まさかマリアンヌも同じく今日脱走する予定だったとは。恐ろしい子だ!だが、ひとりの力では限界がある。だからここは一緒に協力した方がいい。漫画ではいつも言われている理論だ。ほら、簡単でしょう。


「姫様、ひとつお伝えしたい事があります。」


マリアンヌが小声でそう言ったので、多分ヤバいことだと直感した。


「はい、何でしょう。」

「今朝、メイド長からこれをわたしに渡されました。」

「これって?」


マリアンヌの手には小さなカラス瓶が握られていた。瓶には黒いモヤモヤが纏っており、中には明らかに何かの液体が入っている……まさか、毒?


「睡眠薬と思われます。メイド長曰く、今の姫様は他人に会えば、また魔力暴走の可能性があると。それに、元々の姫様の性格では大人しく初夜を迎えるはずがないから、と言って。夕食にこれを……。」

「……。」


うわ〜、流石に無言になった。もし俺が今日逃げなければ、知らないうちに“俺”にあんな事やこんな事をされ……そして知らないうちに妊娠する。お前ら人間じゃねぇ!!


「言ってくれて、ありがとう。マリアンヌ、この瓶は早めに処分しないとダメですよ。絶対にこれを言い訳にして、王族に害を与えた罪をでっち上げられ、あなたを処罰すると思います。」

「……わたしもそう思います。」


今度はマリアンヌが黙り込んだ。それも当然だ。マリアンヌにとって、まるで社長から「この『知らない誰かが横領した証拠』が入っているUSBはお前が保管しろ」と命じられたかのようなものだ。断るわけにはいかず、もし何かあればすべての罪を自分に被せる覚悟でUSBを受け取るのだ。


俺は、マリアンヌが持っている瓶を取った。


「やっぱり、この瓶は私が持つわ。もし急にあなたのことを調べられて、この証拠が見つからなければ、少しでも時間を稼げるはずだから。」

「わかりました、ありがとうございます。」

「それと、調理場で仕事しているお友達がいると言っていましたわよね。」

「はい。馬車を貸すのは出来ませんが、彼女はわたしを馬車に隠れて、城の検問をくぐって下町に送り出す手筈です。」

「朝食も終わったし、彼女に連絡してお皿を回収してもらい、あわせてマリアンヌ逃走用の鞄も渡して、下町のどこかに隠すことは可能かしら?」

「多分…できると思います。わたしがワゴンにその鞄を隠して、彼女に持っていかせるののほうが安全ではないでしょうか?」

「いや、今日一番危険なのはあなたなのよ。」

「!!」

「彼らはあなたにこの瓶を持たせた。だから、いつでも冤罪をでっち上げてあなたを捕らえることができるんです。できれば、今日一日、この部屋から出ないように。ここでは私がいる、勝手に貴方を捕まるのはできないはず。」

「そ、そうですか。では護衛にお菓子を持ってきてって伝え、彼女をここに呼び寄せます。」

「うん、そうでいいわ。  はぁ~、今日はいつも以上に気を付けなければ。まさか帝国がこんなにえげつないとはね。」


それから、例のマリアンヌの友人がワゴンでいくつかのお菓子を持ってきた。マリアンヌは、自分が嵌められたことと、逃走用の鞄の件について彼女に説明し、別れの言葉をかけた。彼女はワゴンにその鞄を隠し、下町のとある場所に密かに保管したようだ。彼女は、どうやらマリアンヌの同期らしく、見習いの頃からずっと仲の良い友人のようだ。



---------------------------------------



昼になった。正直、すぐにでもここから逃げ出したい。しかし、真昼に逃走するのは危険すぎる。パーティー前で警備も厳重だから、何かあれば衛兵たちもすぐに対応できる。だから、夜まで我慢だ。夜になると警備の大半はパーティーに集中するはず。そうすれば、俺もマリアンヌもより安全に逃げられる。


俺たちは、今、俺の部屋とつながっているマリアンヌの部屋に隠れ、今晩の計画をリハーサルしている。そこで、マリアンヌがこう尋ねた。


「ねぇ、姫様はここから逃げ出したら、どこに行くつもりですか?」

「私? カウレシア王国に行くつもりです。」

「そうしたら、ご一緒に行ってみませんか?」

「嬉しい提案ですが、ただ、私がここから逃げた場合、すぐにカウレシア王国の魔の森に直行するつもりです。ふたりで移動すると、多分『魔力』が足りなくなるでしょう。」

「え?! そこは危険な魔物が多く、と有名ですから、危な…」

「私の助けを待っている方がいるのです。」

「……あんなところに誰か?」

「ドラゴンさんですよ。」

「え?! ドラゴンって、先日の…?」

「はい。あのときは私を助けに飛んできたのですが、あの()()()のせいで、今は死にかけています。だから、できるだけ早く行かないと。」

「そ、そうですか……。はぁ~、何を聞かれても、もう私、驚きませんわ。」

「ごめんなさい、言えないことが多すぎるのです。」

「いいえ、良いんですよ。確かに姫様の計画なら、すぐにでも出発できそうです。わたしは大丈夫。計画通りなら、追っかける衛兵もいないでしょう。ただ、姫様は魔の森の場所をご存知ですか?」

「カウレシア王国王都のあたり……と、思います。」

「その王都の南西に、馬車で半日ほどの距離があります。」

「あ、ありがとうございます。非常に助かります。」

「姫様とはいえ、魔の森は危険な魔物が多く、例え()()が使えたとしても、危険です。何かあったらすぐに逃げてくださいね。」



---------------------------------------



実は昨夜、夢の中でトイエリさんから助けを求められました。夢に現れた紙には次の単語だけが記されていました。


“ドラゴン”


“助け”


“浄化”


“王国”


“王都”


”魔の森”


“お願い”


この紙を見せたところ、返事もなく、空間自体がすぐに消えてしまいました。トイエリさん、絶対無理しているのでしょう。ドラゴンさんも、俺を助けるために怪我を負っているのですから、絶対助けに行きます。



---------------------------------------



それと、念のため、俺はあの傲慢姫のアクセサリーをいくつかマリアンヌに渡した。マリアンヌの友人を信用できないわけではないが、もし何かあれば、鞄の回収を諦め、そのまま逃げる必要がある。そのときに金が必要になるからだ。だから、傲慢姫の宝石をいくつかいただいた。盗んだのではない!あれは、今の俺のモノだ!その後、今晩に備えて夕食は多めに食べた。




いよいよ日が暮れる。今夜は曇り、夜空が見えなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ