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26話 呪いの約束

 俺が魔無し部隊の隊長となったのは、グラ砦における籠城戦が始まってからのことである。


 魔人である俺は当初別の部隊に配属される予定だったが、命令を無視して彼らの部隊を率いることにしたのだ。


 おかげで上層部とは仲が悪い。


 そうまでしてここに残った理由は二つある。


 一つは、魔無しの兵士たちを見捨てられなかったから。


 そしてもう一つは、ある一人の少年兵を救いたかったから。


 今でも思い出す。


 戦争が始まったあの日。

 夜明けとともに、血塗れの姿で現れた少年。


 彼がいったいどんな地獄を味わってきたのかはわからない。

 だがそれでもすぐにわかったことが一つある。



 心が壊れていた。



 その目に光はなく、ただ銃を握る手だけが震えていた。


 それが出会い。


 あれからずっと彼は死にたがっている。


 俺はそれが悲しくて、苦しくて、彼に生きろと命じた。


 それが呪いだと知りながら。


 それでも、そうするしかなかったから。


――――


「ちっ、厄介だな」


 たった二度の攻防。


 それだけで辺り一面が火の海になっていた。


 築いた岩壁は跡形もなく崩れ落ち、すでに俺たちを隔てるものは何もない。


 奴と相対したその瞬間から、周囲を埋め尽くす熱を忘れるほどの不気味な悪寒が、喉元を締め上げている。


 最悪の気分だ。


「王国にもまだ魔人がいたんだね。意外だったよ」


 戦場に似つかわしくない穏やかな声音。

 だがその顔には残酷な笑みが刻まれている。


 一目見てわかった。


 こいつは狂っていると。


「それに僕の攻撃を二度も止めるなんて、なかなか見所あるじゃないか」

「そりゃどうも。別にお前に褒められても嬉しくはねえけどな」

「つれないねえ。僕は今とても感動しているんだよ?雑魚ばかりで退屈してたところに、君みたいな敵が現れてくれて」

「俺は最悪の気分だよ。なんでよりによってこんな立て込んでる時にお前みたいのを相手にしないといけないんだ。面倒くさい」

「おや、立て込んでたのかい?それは悪いことしちゃったね。もしかしてさっき一緒にいた人たちのことでかな?大事な人でもいた?」

「答える義務がどこにある」

「図星だったかー。しかし健気だねえ、一人残って足止めとは。そういうのは嫌いじゃないよ。応援したくなってきちゃった」

「だったらそのまま回れ右して帰ってくれねえかな」

「それはダメだよ。僕は君が目的のために必死になって戦う姿を見たいんだ。そういうの笑えるだろ?」

「性格悪すぎ」

「ははっ、よく言われる」


 カラカラと楽しそうに笑う男。


 一見無邪気そうに見えなくもないその姿も、中身が腐っていれば嫌悪感しか湧いてこないというもの。


 こういう輩はたまにいる。


 戦争のせいで狂ったのか、もともとそういう性分なのかは知らないが、どす黒く濁った瞳は同じ人間のそれではなく、どこまでも歪で、そして醜かった。


「そういえば自己紹介がまだだったね。僕は帝国軍少将フレイ=アックマーラ。見ての通り“炎”を操る。以後お見知りおきを。それで、君の名前は?」

「生憎と、俺は親しい友人にしか名乗らない主義なんだ」

「いいのかい?きっと灰すら残らないから、せめて名前くらいは僕の記憶に残してあげようと思ったのに」

「お気遣い結構。別にここで死ぬつもりはない。お前を倒せば済む話だ」

「あっはっは、威勢がいいね。これは期待できそうだ。俄然僕も燃えてきたよ」


 その言葉を合図に、再び魔力が膨れ上がった。


 周囲で燻っていた灼熱がその勢いを取り戻し、奴のもとへと集まっていく。


 そして現れたのは、燃え上がる炎の鎧を身に纏った悪魔の化身。


「偉そうに啖呵を切ったんだ。敗北にはそれなりの代償を払ってもらうよ」

「代償だと?」

「そうだね、君が死んだら、僕は逃げた連中を殺しに行くとしよう。一人だって逃がしやしない。君が守ろうとしたもの全部灰にしてあげる。それが嫌なら全力で戦うといい。どう?面白い趣向だろ?」

「・・・クソ野郎が」


 どれだけ性格がひん曲がればここまで残酷になれるのだろうか。


 理解できない。


 だが今はその凶暴性こそがこの上なく厄介だった。


 これは脅しじゃない。


 俺がしくじれば皆死ぬ。


 最後に残されたたった一つの希望さえ消えてなくなってしまう。


 それだけは認められない。


 あいつは死なせない。


 だから振り絞れ。


 いつだって俺たちは、絶望の中で戦ってきたじゃないか。


「行くよ」


 奴の掛け声と共に、炎が巻き上がる。


 身を焦がすほどの熱に当てられながら、それでも俺は覚悟を決めた。


 死んでたまるか。

 俺たちは生き残るんだ。


 そう約束したもんな。


 ノーデンス。


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@tororincho_mono


とろりんちょ

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