表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

25/44

25話 魔人襲来

 有史以来、人は魔力と共にその文明を発展させてきた。


 生まれながらにして宿し、血のように循環させ、手足のように操る。


 万人にとって魔力とはそういうもの。


 だから魔力を使えるということそれ自体に、特別な意味はない。


 しかし何事においても例外は存在する。



 “魔人”。



 人並外れた魔力量を持つ彼らのことを、人々は畏敬の念を込めてそう呼んだ。


 魔人は恐ろしく強い。

 その戦略的価値たるや、単独で一個大隊に匹敵するほどである。


 戦場で死をまき散らす嵐。


 それが魔人という存在だ。


 そして今、突如として目の前に現れたのは、まさにその厄災そのものだった。


「准尉!」


 俺が叫ぶのと同時に、敵が攻撃態勢に入る。


 掲げた手のひらから放たれるは“炎”。


 赤く輝く灼熱がまるで波のようにうねり、廊下を焼き尽くしながらこちらに向かって押し寄せてくる。


 回避は不能。

 当たれば必殺。


 それはあまりに理不尽な攻撃だった。


 これが魔人。

 圧倒的な火力をもってして、容赦なく敵を蹴散らす強者。


 なるほど、最悪の敵だな。


 だが幸か不幸か、まだ詰みではない。


 こちらにも切り札は残されている。


「させるか!」


 迫りくる炎を前に、准尉が吠える。


 迎撃の準備はすでにできているようだ。


 練り上げられた魔力が彼の体から解き放たれる。


 呼応したのは“大地”。


 壁や天井、地面が歪み、通路を塞ぐ岩壁が築かれ、なだれ込む炎の前へと立ちはだかった。


 そしてぶつかる魔術と魔術。


 攻める炎と、守る壁。


 激しいせめぎ合いが続く数秒間。

 壁一枚隔てた向こう側は、今まさに地獄と化していることだろう。


 だが永遠に思えた攻防も、やがて終わりを迎える。


「防ぎ切ったのか・・・?」


 敵の攻撃が止み、束の間訪れた静寂の中で司令がそんな間抜けな声を上げる。


 やはりこいつはダメだな。


 初撃を防いだくらいで何を安心している。


 本番はここからだろうが。


「准尉・・・」

「わかってる。今のは雑兵相手の適当な一撃だろうよ。こちらに魔人がいるとわかれば、次は本気で来る」

「だろうな」


 そう、准尉は“魔人”なのだ。


 訳あって魔無し部隊の隊長なんてやっているが、本来は軍人の頂点に君臨する最強戦力の一人なのである。


 彼がいればまだ戦える。


 だが・・・、


「どうする?」

「お前はお姫様を安全な場所まで連れていけ。時間は俺が稼ぐ」

「・・・」

「別に死ぬつもりはねえよ。お前らがいたらまともに戦えねえから言ってんだ」

「でも・・・」

「だから勘違いすんなって」


 そう言うと准尉はニヤッと笑った。


「“風”を使う。意味は分かるな?」

「・・・分の悪い賭けだぞ」

「賭けができるだけまだ恵まれてんのさ」

「そうかもしれないが・・・」

「ノーデンス、もう俺たちに残された道はそれしかない。それとも他に方法があるか?」

「それは・・・」

「ないなら命令に従え。なに、心配するな。いつも通りやるだけだ」

「・・・わかった。けど死ぬなよ」

「ああ、任せておけ」


 准尉のその言葉を信じて、俺は踵を返す。


 不安はあるが、作戦は決まった。

 ならばあとは実行に移すのみ。


 やるしかないのだ。

 できなければ全員死ぬだけ。


 そう自分に言い聞かせ、俺は敵に背を向け走り出した。


「ノーデンスさん、何をしてるんですか!?」

「逃げるんですよ。あいつは准尉に任せます」

「そんな!見捨てるんですか!?」

「俺たちがいたところで邪魔になるだけです」

「でも彼は・・・」

「ご心配なく。さっき見たでしょう?あれでも一応強いんで」


 背中で騒ぐ王女様を適当にあしらいながら、どんどん速度を上げていく。


 時間が惜しい。


 敵の強さが分からない以上、准尉がどれだけ時間を稼げるかは不明だ。


 ならばさっさとこちらも準備を進めなければ間に合わなくなる。


「おい、待て!何を勝手に動いている!」

「殿下を振り回すな!この無礼者!」


 残りの二人もちゃんとついてきているようでなによりだ。


 とにかく今は全員でここから離れなければ。


 足手まといがいては満足に殺し合いもできない。


「急げ」


 逸る気持ちが口をつく。


 その矢先、後方で轟音が鳴り響いた。


 どうやらあちらも戦いが始まったようだ。


 准尉は大丈夫だろうか。

 うまくやれるだろうか。


 彼を信じていないわけではないが、それでも不安にはなる。


 死ぬなよ。


 お前が死んだら、きっと俺は破綻する。

 何がどうなるかなんて自分でもわからないが、それでも何かが壊れる気がするんだ。


 だから死ぬなよ。


 死ぬのは俺一人でいい。


 そうでなければ、もう何を呪えばいいのかもわからなくなってしまうから。


感想・評価・ブックマーク等いただけると作者が喜びます。


↓小説の更新情報とか投稿しているので、よかったらツイッターのフォローもよろしくお願いします。

@tororincho_mono


とろりんちょ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ