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15話 裏事情

「よっ、ノーデンス」

「准尉、てめぇいったい今までどこで油売ってやがった」


 久しぶりに姿を現した我らが部隊長を見て、俺は思いっきり顔をしかめた。


 当然だろう。

 部隊がこんな訳の分からない状況だというのに肝心の隊長が消息不明とは無責任にもほどがある。


 俺が非難を込めて睨みつけると、彼は肩をすくめる。


「おいおい、俺だって色々頑張ってたんだぞ。そんな目で見るなって」

「ここで遊んでたなんて言ったらそれこそドタマぶち抜くところだ。さっさと知ってることを全部話せ」

「なぜそんな高圧的なんだ。なんか怒ってる?」

「怒ってない。ただ少し余裕がないだけだ」

「俺のいない間に何があったんだよ。ここ最近はこの部隊、ずいぶんと楽してたはずだろ」

「よく知ってるじゃないか。その通りだとも。おかげで俺は全然死ねる気配がない」

「その怒り方は理不尽だ。死にたい奴に合わせて動けるわけねえだろ」

「だから怒ってないと言ってるだろ。いつもより優しくないだけだ」

「だからそれが怖えんだよ」


 ギャーギャー騒ぐ准尉を無視して俺は詰め寄る。


 機嫌が悪いのはそうだが、それを抜きにしてもどうして俺たちがこんな状況にあるのか早急に聞き出す必要はあるのだ。


「ほら、さっさと持ってる情報を吐け」

「わかったからガンを飛ばすな」


 ようやく観念した准尉が渋々といった様子で口を開く。


「事の発端はとある人物の視察だ。最近なんか噂を聞かなかったか?」

「視察?噂?」


 少し考え込む。


 そういえば最近そんなことを誰かが言っていたような気がする。


 だが思考に霧がかかったみたいでよく思い出せない。


「知らんな。聞いたかもしれないが忘れた。思い出すのも面倒だ」

「お前はもう少し周りに興味を持て。多分お前以外全員知ってるぞ」

「そんなことはどうでもいい。で、その視察が何だって?」

「うーん、結論から言えば、今上層部は混乱している。これがただの視察なら別に問題はなかったんだがな、今回のは少々厄介な人物が監査官に選ばれちまってるようで」

「誰だ?」

「第三王位継承権者、ミナリス・ベール・ネビラス第一王女殿下だ」

「は?」


 准尉がそう言った瞬間、俺は自らの耳を疑った。


 そんな馬鹿な話があるか。

 いったいどうトチ狂えば一国のお姫様が戦場の視察に来るなんてことになる。


 流れ弾で死にでもしたら間抜けとして後世に語り継がれるぞ。


「お前の言いたことはわかる。普通こんなところに王女様が来るなんてことはあり得ない。だが実際来てしまった。理由は見当もつかないね。だから今はその辺の経緯とやらはひとまず置いておく。大事なのはその結果どうなったかだ」

「というと?」

「俺たちの現状の話さ。俺たちがこんな安全な場所に連れてこられたのはな、上層部が王女殿下に都合の悪いものを見せたくなかったからだ」

「・・・ああ、なるほど。一応あいつらにもそれなりの常識はあったんだな」

「いや、保身にかけては一家言あるというだけの話だろ」


 聞く人が聞けば懲罰ものの会話を繰り広げながら、俺と准尉は面白くもなさそうに表情を歪める。


 あまりのくだらなさに反吐が出そうだ。


 いったい俺たちをどこまで馬鹿にすれば気が済むのだろう。


 つまるところ、上層部の奴らには自らが非道な仕打ちをしている自覚があったということだ。

 その上でそれを強要し、ご大層な理屈までこじつけていたというのに、いざ都合が悪くなればあっさりとなかったことにしようとしている。


 ふざけた話だ。


 まあ、最初から何も期待などしていなかったが。


「で、これからどうするんだ?この話の流れだと、王女様の視察とやらが終わったら俺たちはあの戦場に逆戻りってことだろ?」

「その可能性が高いだろうな。だからそうならないように今色々と手を回してるんだ」

「へえー、それはご苦労なことで」

「他人事だな」

「他人事だよ。別に俺はあそこに戻ることになってもかまわない。いや、むしろそれを望んでいる。知ってるだろ?俺は“死にたがり”なんだ」

「お前はまだそんなこと言ってんのか。いい加減・・・」


「ノーデンスさーん!」


 准尉の小言が始まりそうになった時、少し離れたところから元気な声が俺を呼ぶ。


 これ幸いとそちらに視線を向ければ、べリスが笑顔でこちらに駆け寄ってきていた。


「ノーデンスさん、見てください。一人で銃の組み立てできました」

「おう、おめでとう。よくやったな」

「えへへ」


 上機嫌のべリスがひとしきり照れ終わると、俺の隣にいる准尉の存在に気が付いた。


「あれ、この人どなたですか?」

「うちの隊長だ。准尉、こいつは新入りで、今俺が教官やってる」

「へえ、お前が教官ねえ。似合わな」

「大きなお世話だ」

「あの、べリスと言います。よろしくお願いします」

「おう、俺はバラクマーだ。よろしくな」


 生来人懐っこい性格をしている准尉の快活な笑みを見て、べリスも安心したように微笑む。


 和やかな雰囲気の中、陰気な俺だけが浮いていた。


「しかしべリス、お前は運がいいな。ノーデンスに教えてもらえるなんて」

「え?」

「こいつは恐ろしく優秀だからな。よく学べよ」

「え?」


 おい、准尉、やめろ。

 普段やる気のない姿しか見てないからべリスが困惑してる。


「さて、俺はそろそろ行く。また何かあったら来るから、それまで部隊を頼むぞ」

「おい、待て。無茶を言うな。俺は俺のことで精一杯だ。部隊のことなど知らん」

「ははっ、そう言いつつなんだかんだ世話を焼くのがお前という男だ。だからこそ好き勝手俺も動ける」


 最後にそう言って准尉はこの場から立ち去っていく。


 勝手なことを言うその背中を恨みがましく睨んでいると、取り残されたべリスが俺に向かって話しかけてきた。


「なんか面白い人ですね」

「まあそこそこ頼りになる奴ではあるな」

「仲がいいんですね」

「付き合いが長いだけだ」


 ぶっきらぼうにそれだけ言って、俺も踵を返す。


 准尉の話から察するに、どうやら近々また大きな動きがありそうだ。


 どうなろうが俺は別に構わないが、せめて今のうちにべリスの教育は済ませておこう。


 それこそ、俺がいついなくなっても大丈夫なように。


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とろりんちょ

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