1話 死にたい兵士
「死にたい」
夕暮れの空を眺めながらため息を零す。
先ほどまでひっきりなしに響いていた銃声と悲鳴は止み、今は不気味なほどの静けさが辺りを支配していた。
変な話かもしれないが、俺はこの一日の終わりに訪れる平穏が嫌いだ。
何もすることがなくて、余計なことを考えてしまうから。
「はああ・・・」
我らがネビラス王国とダール帝国との戦争が始まってもう一年。
突如故郷が火の海になったあの日から、俺は銃を手に取り戦い続けていた。
いくつもの戦場を転々とし、来る日も来る日も戦い続けて、もう何人殺して、何度敗北したかも覚えていない。
もはや己の戦いに意味があるのかさえ、俺には分からなかった。
当の昔に心は壊れ、魂も狂った。
事ここに至って俺が求めていることはただ一つ。
死にたい。
それだけを願って俺は戦場をさまよっている。
でも未だ死ねない。
死神がすぐ傍にいるはずなのに、どうしてかいつも選ばれるのは俺ではない誰かだった。
あまりに理不尽である。
ならば自ら命を絶てばいいと、そう思う人もいるかもしれない。
だがそれはできなかった。
だってそうだろう?
いったいこの戦場でどれだけの兵士が、生きたいと願いながら死んでいったことか。
ここで俺が自ら死を選ぶのは、そんな彼らに対する冒涜に他ならない。
だから俺には自分で自分を殺すことが許されていなかった。
俺に許されている死に方はただ一つ。
全力で死に抗い、戦い続けたその果てで死ぬことだけ。
なればこそ、俺は願う。
「誰か、早く俺を殺してくれ」
“死にたがりのノーデンス”
人は俺をそう呼ぶ。
@tororincho_mono