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ナズナの十字架  作者: 天崎 栞
20年後
4/29

第2狂・「心臓にしか興味を示さぬマリオネット」


第1狂はストック分が投稿が決まり

物語構成の関係でこちらは第2狂とさせて頂きます。

勝手に変えてしまい大変申し訳ありません。


この様な事がない事がないよう、

今後、再発の防止に勤めます。


透架サイドストーリーです。


残酷描写あり。



「御影透架。循環器科のエースで秀才。

まるで心臓外科医になる為に生まれてきたようなものだ」


一瀬が皮肉な眼差しを向けて、気怠く言う。

一瀬メディカル循環病センターの院長が、

一人息子よりも注目を集めている事、敵はよく思えないのが現実だ。


「“心臓にしか興味の示さぬマリオネット”」。


それが、御影透架が影で囁かれている彼女の名前だ。

誰にも媚びず己の道だけを真っ直ぐに歩いている彼女はその凛として時雨の様な姿は、何処か近寄りがたい。


院長の息子で循環器科の有名人になるだろう、という噂は同期である御影透架に全て持っていかれてしまった。

それから湊太は、透架に嫉妬心と好奇心に駆られている。


しかしながら彼女の

心臓外科医の医師としての才能は天性のもので、

心臓外科医、心臓血管外科医、等、心疾患のエキスパートだ。

加えて端正な容姿も相まって研修生の憧れの的。

ただ彼女は誰も近寄らせず、鳥籠に籠るかの様に、

いつも一人だ。

最高の孤高の女医。


医師として邁進するのみ。

彼女はただ医師としての生命の為に生きるだけだ。

“それ以外”が誰にも見透かせない。

何も言わず語らずの彼女の意思は、誰も何も見えない。



彼女自体も秘密主義であるせいか、

その近寄りがたい雰囲気に踏み込もうという強者は中々、現れはしないのが現状だ。難易度が高すぎる。


院長の息子という権限を駆使し、彼女の経歴を盗み見た。


家族構成も不明、

医学部志願者で有名なお嬢様校と名高い私立校から

府立大学の医学部に在籍。首席で卒業した、という事実以外彼女の生い立ちや過去は見えない。


湊太も掻き立てる好奇心から、

御影透架に近付こうとしたのだが出来なかった。


執刀医として

手術中や患者のカルテを見詰める眼差しは

真剣そのものだけれどそれ以外はぼんやりと空を見ている。

空を見ているのか何処に視点が定まっているのかさえも読めず掴めない。


ただ影を佇ませる物憂げな雰囲気を顔立ちと

彼女の横顔を見た瞬間、独特の切なさに打ち砕かれた。

薄幸さのある顔立ちには儚さと、危うさを兼ね備えている。

それは例えるならば踏み込んでしまえば、

硝子細工の如く、崩れ去りそうで何処か怖い、と思ったから。






ただ、同時に思ったのは、

彼女を追いたいという感情。それは、如実であった。

何処か不思議で秘密主義な彼女は、どんな素顔を持っているのか。


ただひとつ。彼女は追いかければ、

一歩ずつ遠い存在になる様な錯覚させる。

だからこそ遠い存在であればあるほど追いかけたくなる、

そんな奇妙な感覚を覚えたのは何故だろう。

その輪郭が霧に包まれた様な、輪郭も持たぬ掴み所のないところなのか。


過去も、御影透架という人格も、見えない。

彼女自身の口数の無さが災いしているのか、本人からのアクションも何もない。

まるで彗星の如く現れた天才的で秀才の、心臓外科医。

彼女はまるで医師になる為に生まれてきた様なものだ。












土足で心に踏み入れられるのは、好きじゃない。

けれども他人は興味本位と好奇心から、土足で人の心を踏み荒らしていく。

知ったところで、話を盛り上げるだけの餌になるだけだというのに。




きっと誰からも、

この選択が良く思われていない事は重々承知だ。

犯罪者の男の娘が医師となり、命を救う立場に居る事を。

とても場違いなところに居る事も。

透架自身、これで良かったのか。とたまに思う事がある。

けれどまだ答えが出ないままだ。



目の前の目まぐるしい出来事に追われて、

周りの雑音が聴こえなくなってしまったのは

何時からだろう。


妹の心臓移植の費用を稼ぎ、

貯蓄しなければならない。



循環器系の医師になれば、

妹の置かれている病状も理解出来やしないかと思い始めた。

それに、最終的には………。



誰に何を言われようとも構わない。

妹は救う為ならば手段は選ばない。

不器用な自分自身にはこの方法しか思い浮かばなかった。

全ては、愛しい双子の妹・純架の為に。


けれど。

(ようや)く、時は来た。

この期間は言葉では言い表せない程に

長く“彼女”を待たせてしまった事は申し訳ない。

だがもうすぐ終着駅まで歩いている中で一駅目に辿り着く。







真っ暗闇。

世の光りに照らされた銀色が、ギラギラと輝いている。

目の前にいるのは、何かに取り憑かれた様な鋭い眼光

の男。


(まただ)


心の中で、呟く。

男は此方へ、向かってくる。

双子の妹を突き飛ばして振り返った刹那、銀色の代物が視界に入った。


嗚呼。

本来なら、これでいいのだ。

これで……と思った時、瞼をゆっくりと開けた。




途切れ途切れの意識の中、ゆっくり瞳を開けると

まだ夜明け前だった。群青色にそまった天井は

まるで(ヴェール)のよう。


対して彼女の瞳は虚ろだった。

仰向けに寝返ると、透架は笑う。

まるで自らを嘲笑う様に。


気絶する様に眠りに着いたらしい。

だらんと項垂れた手の先には、抗不安剤と睡眠導入剤。

途切れ途切れ、中途覚醒を繰り返しながら、

いつの間にか服用した薬に促されて眠る日々を

もう何年も繰り返している。




あの日、国家資格を取得したと解り

夜逃げ同然に“あの館”から逃げ出して、何年が経過だろう。


ようやく妹を呼び寄せる事が出来る。


御影から純架を守れるよう、

あの冷酷非道な御影を監視し、純架を見守るのだ。

その為には、まだ気を抜けない。


(純架を守れる人なんて、きっと現れない)


遅かった。遅すぎたのかも知れない。

けれど片割れの目標にもうそろそろ辿り着こうとしている。


不意に腕を上げた、

するりと長袖の部分の服が落ち

腕から見えた白い華奢な腕。

それには似つかわしいリストカットの傷痕が

びっしりと刻まれていて、白い肌を覆い尽くし端から見れば痛々しく見えるだろう。


(何度傷付けても、傷付けても、事足りない)


どこまでも

傷を着けても自分自身は赦されない存在だと思えば、自傷はとめどなく透架を赤に彩った。


自分自身への憎しみは

どれだけ十字架を噛んでも止まらない。


他に方法はあれど、

不器用な自分自身は、どこまでも不器用だ。






今朝から怒涛の一日の始まりだった。

今日は通り魔のあの少年が現れ、“あの男”と姿が重なったのもあるかも知れない。


(あの子が原因じゃない)


心に強く根付いたものがある。

あの時、警察と救急隊が押し寄せてきた。

通り魔の少年は警察のお縄となり消えて、

救護しかけた女性の同乗者として隣県の病院まで(おもむ)いた。


今日は勤務予定も手術の案件もなく

休みだった事、何もなかったのが、幸いだったが。



心は砂漠と虚空を抱えているのに。

不意に自分自身が涙を流している事に気付いた。

腕で目許を隠すかの様にして、ぼんやりと闇を見詰める。


(どうして、私が生き残ってしまったのだろう)


今でもフラッシュバックして、

悪夢として脳裏に現れるあの日。

それは時折に見る夢は現実よりも鮮明だ。

刹那的に入り込む罪悪感に呼吸が、胸が締め付けられる感覚に陥る。


(純架、ごめんなさい……)


一生、消えない懺悔。

一生、赦されない罪。


(私は、貴女の将来を奪ってしまったのだから)





いかがだったでしょうか……。

拙い文章で、とても申し訳ないです。


はてさて。

終着駅までの一駅目に辿り着く、という意味は

透架にとって何を意味するのでしょうか。



2021.05.06 加筆、訂正有り。


また自傷を連想させるシーンがございますが、

物語の構成上、と念頭に入れて頂くと幸いです。

行為を助長させる意図は全くございません。

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