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ナズナの十字架  作者: 天崎 栞
20年後
3/29

第1狂・孤高の女医

申し訳ございません。

投稿しようかと迷ってしまった一話目ですが、

投稿という形を取らせて頂きました。


通り魔・残酷な描写有り。






オートロック式マンション内で、

住民は小鳥の様に怯えては、小刻みに震えている。

何故ならば刃物を持った不審者が侵入し、

マンション内では無差別殺傷の事件が起きているからだ。


不運にも朝の通勤ラッシュが重なってしまった事。

断末魔の様な悲鳴が重なっていく。


負傷者が次々と現れ、

無差別の通り魔により、人は倒れ伏せている。

マンションの管理人により住人達は部屋から出ない様にし

肩を震わせながら、部屋に篭っている。

そして皆は耳を塞ぎ(うずくま)りながら、

嵐が去るのをただ、ただ、待ち続けていた。




(ああ。何処か気持ち悪い)


彼女は物憂げな表情のまま、

素早く後ろへ髪を纏める。

地を蹴り、そのまま駆け出した。


手入れの行き届いた、

さらさらのダークブラックのストレートロング。

シンプルなロングカーディガンと、ジーンズ。


悲鳴を聞いたのはつい先程だ。彼女はドアを開けた。

階段の踊り場には誰も居らず静寂な殺風景な景気。


ただその中で、

若い女性が血溜まりの中、仰向けに倒れている。

駆け寄るとひざまづき、手首と首筋に触れた。

脈を確認する為だ。


こんな時にパルスオキシメーター、血圧計、

アンビューバッグがあればいいのに。




「私が分かりますか?

分かりましたら、指先を動かして下さい」


握った指先の温かさは、冷たくなっている。

微かに動いた指先を彼女は見逃さなかった。



布で傷口に圧をかけると、彼女は呻き声を上げた。

彼女は変わらず手首の脈を触れている。


呼吸が弱い。脈は早くなる。

一刻も早く喉頭鏡で、気道の確保をせねば。

しかし救命道具も備えていない現状では限界を思い知らされる。


それでも彼女は冷静沈着で

微動ひとつせず、応急措置に当たっている。

手首に己の手を当て、口許に耳を近付ける。


「呼吸は弱いがある。脈は薄く早い。

パンペリ (腹腔内出血) を起こしているかも」


一刻を争うのは、分かっている。

だからこそ一瞬も目を背けず、この景色から逃げられない。

ペン型のライトで瞳孔を確認した所瞳孔反射も、か弱くなっていく。


そんな中、誰かが此方へ駆け寄ってくる足音。




「君、何をやっているんだ!!部屋に入りなさい!!」

「…………はい?」

「は、犯人はまだ、い、いるんだぞ」

「そうですか」


素っ気なく切り捨てた彼女に、

初老の男性はあんぐりと口を開け、呆気に取られて固まっている。

整えられたグレーヘアに質の良いシルクのパジャマ。

管理人の男性だ。威勢を張る強がる言葉とは裏腹に

脚は生まれたての小鹿の様に震えていた。

言動が似合わない上に今すぐに逃げてしまいたい、

という思いが見え見えだった。


(……生きる執着というものは、こういうもの?)


生きる力。

感性と感覚が零れ落ちた分からない。

彼女は心中で溜め息を吐きながら、

負傷し仰向けに倒れている女性の手首を触れている。


「皆、避難しているぞ!!犯人は、まだ………」

「………私は望んで部屋から出てきたんです。

ご心配なく。それより、ご自身の心情に忠実になられてはいかがかと」


全てを凍り付かせる様な、突き放す様な冷たい物言い。

端正な顔立ち。その瞳に佇む冷気と薄幸な顔付き。


しかし彼女の発言は、

管理人の心情を見透かし読み上げている様で全て合わせている。

まるでババ抜きのトランプカードの数字を合わせたかの様に。


「それに、素人が、下手な真似を………」

「………素人、ですか」


彼女は俯いた。物憂げな面持ち。溜め息の様な呟き。

だがこの切羽している空気の中でも冷静さを失わず

現実と向き合っている。


「私は、現役の医者です。

医師としての使命を果たしているだけです。

お疑いならば、一瀬循環器病メディカルセンターに

お問い合わせ下さい。………御影透架、で通じる筈です」





負傷した衝撃で、彼女の意識レベルは低下が著しい。

一刻を争う中で止血していると管理人の悲鳴が聞こえた。

反射的に視線向けると、彼女は手を止める。



ぎらりと狂気を宿し光っている細身の男。

幼い顔立ちとその見会わない威勢にまだ未成年だと気付いた。

それを確信だと気付かせたのは、圏内トップの私立学園の制服。

それにはべっとりと反り血の鮮血が、黒と混ざっている。

それは鋭利な刃物を(かざ)した


刹那的に

脳裏にあの男の記憶が蘇った。

狂気と理性を失った獣が、狂乱し刃を向ける姿。


(………この子もそうか)


少年と“あの男”の姿が重なった刹那、

傍観者の様な現実から引き離された感覚に陥る。


虎の威を借る狐、そんな言葉が似合いそうだ。

ナイフを振りかざして威勢だけを張っているだけだと

見抜いた隙に、彼女はにやり、と乾いた微笑みを浮かべた。



そして同時に


(あの子は、どんなに怖くて、痛かっただろう)


脳裏に蘇った記憶に、

あの幼い少女の姿が余儀って一瞬だけ動作が止まった。





物語の構成として置き去りにしてしまったものを勝手に変えてしまい申し訳ございません。

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