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ナズナの十字架  作者: 天崎 栞
封じられた過去____form“透架”
29/29

第27狂・報われぬユリの怒り、マリオネットの審判




ここまですれ違いながらも、

互いを思い合う姉妹の感情が

壊れてしまったのならば現実はどうなっていくのだろう?






『あなたは

私が御影純架さんの双子の姉、と言っていましたよね?_____私、“御影純架さん”とは、赤の他人なのですが』


『それに“世の中には3人、

顔の似た人がいる”という噂があるでしょう。

恐らく他人の空似に遇われたのかと。きっとその類いです』


透架は

『心臓にしか興味のないマリオネット』ではなかった。

『双子の妹にしか興味を寄せないマリオネット』なのだ。

きっと純架に関連する事以外は、興味もない。

感情を罪滅ぼしを望む彼女は、純架の為だけに生きるのだろうか。

双子の妹を思う気持ちは酷い程に純粋で

実直で嘘偽りはないのだが、その中身は酷く滑稽だ。



『____まず、透架に再会したいの。

私が命が尽きる前に、透架に伝えなければならない事があるから』


純架が、自身の命のリミットに焦燥を感じながらも

透架に伝えなければならない事は一体、何なのだ?





「転院してから、貴女の病状は平行線は、お聞きしました」

「…………平行線であっても、これ以上、もう好転しないでしょう」


ドナーは現れない。

序列は知らないが、きっと自分自身のこの身体は長く持たないだろう。


諦観の眼差しと物憂げな顔付きで、純架は窓を見詰めたまま

そう告げた。たまに訪れる御影家の女性は、小姑同然だ。

幼い頃からの付き合いと、その粘着質のある言葉の数々は聞き飽きた。


たまに様子を見に来ては、母親殺しの恨み節を告げる。

最初は傷付いて謝り続けていたけれども、それも疲れた。

この女性はサイコパス的な要素を持ち合わせている。


純架が

謝罪する度の、恍惚に満ちた一面を知り悪寒が走った。


(嗚呼、なんだ、いたぶり続けたいのね)


それから、すっかり熱が冷めた。

御影家は双子の姉妹を【母親殺しの女】として扱いたいだけ。


だが。

同時にやり場のない純家の想いは膨れ上がり、自己処理出来ないのだ。




「“あの子”は、どうなっているのでしょう」

「……………?」

「私と同じだから、

生きていたら29歳。もう立派な女性よね。

10歳になる年に生き別れてしまったから後は知る事は出来ないけれど。

ねえ、何かご存じ?


透架が恋しくて、会いたくて仕方ないの」

「母親が殺しが欲を言ってはならないわ!!」

「へえ………」


ゆらり、と揺れた瞳。

御影家の後見人と名乗る女性は、背筋に悪寒が走る。


「母親殺しなら、透架も同罪でしょう?

私達、一卵性双生児で元は一つの細胞だったのだから

母親殺しが共にいる事は事は罪なのかしら?」


彼女は押し黙る。

優しい繊細な花に見えて、純架が見せる毒は鋭い。



「…………ねえ、何故、私達をわざと、生き別れにさせたの?」


その表情は無表情で、言葉は無機質で、暖かみがない。

記憶喪失の姉。それを良い様に利用に御影家。



「透架が記憶喪失になった事を良いことにして、何処へ、何をしているの?」

「それは貴女には関係ないわ!!」

「関係ない? 笑わせないで?」


純架の口角が、呆れた様になっている。


「私達はずっとひとつだったの。今だってそうよ。

姉を、片割れを喪って、私はずっとさ迷ってる。

透架もそうなら、私は貴女達を許さない。


貴女達が、私達を切り離させた。


この病気が悪化したのも、ドナーが見付からないのも……

皆、貴女達、御影家の指示でしょ?

透架は何処へ行ってしまったの、何処に居るの。

私達を母親殺しの罪人だと言い続けるのならば、せめて二人で懺悔させれば良かったのに!!

片割れも母親殺しというのなら、私にも、その消息を知る権利はある筈よ!!」


当たる矛先がない。

けれども自身と双子の姉を切り離させたのは、御影家だ。

御影家の後見人に合うと抑えていた喜怒哀楽の感情が爆発する。


「自分自身に陶酔するのもいい加減になさい!!」







篠宮 貴宏受刑者____殺人未遂、懲役25年。


被害者遺族 : 不明

備考:模範囚の為、仮釈放を経て出所する。出所時期は___。


篠宮貴宏受刑者の出所は、確定だった。


_____透架、自室。



暗い部屋の中で、彼女は1人向き合っていた。




カタカタ、とパソコンのキーボードを打つと、

Enterキーを押して、腕を組みながらじっくりと透架は画面を見詰めた。

届くだろうか。否、遅かれ早かれ、

篠宮貴宏は奈落に突き落とす。妹の為ならば

手段を選ばないと誓った以上、裏切りはしない。


現実は厳冬の様に冷たく、残酷だ。


(きっと篠宮貴宏はまだ娘の暗殺を諦めてはいない筈)


篠宮貴宏受刑者が出所して

純架の前に現れる確率は99%、透架の前に確率は残りの1%。

けれども二度と純架の目の前には現せない。

彼女の心の傷を抉る様な真似も過ちも繰り返させない。





_______御影 純架、病室前にて。



ぴくり、と肩が震えた。

初めて思い知ったのだ。静かな野花の様な純架がの牙を。激情を。


見知らぬ女性が妹の病室へ入っていくのを怪しみ

透架はちらり、と純架の様子を見に来たつもりだった。

双子の妹は、見た事のない表情。喜怒に満ちた激動に揺さぶられている。


けれどもこんな激動を1人で抱え込んでいたとは、透架は何も知らなかった。


(…………ごめんなさい)


「ああ見えて、純架は喜怒哀楽が激しいんですよ。

貴女の事なら特に。でも、生き別れてしまった貴女は知らないでしょうがね………」


何処かで知っている声が聴こえた。

嗚呼。生き別れて9歳のまま止まった彼女を見ている自分自身とは違う。


今だって逃げている自分自身は、

双子の妹の事なんか分かりやしないだろう?





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