プロローグ
新連載。
よろしくお願い致します。
真っ暗な世界。
目を凝らしても闇しか見えない。
そんな滑稽の静寂で、聴こえたのはドス、という鈍い音。
けれども不思議と痛みは感じず、
変わりに何かが、もたれ掛かる様な重み。
自分自身の周りに海の如くみるみると色鮮やかな赤色が広がってゆく。
「きゃあああああ_______!!」
女のけたたましい絶叫にも似た悲鳴。
それは悲観に暮れる様な喪女の哀しみのようだ。
カラン、と床に落ちた銀色を、月光が照している様に見えた。
(………どうなっているの?)
何がどうなっているのだ。
闇の中で響くのは、鈍い音。女の悲観に暮れた絶叫。
「………と……う、か………」
ぐらりと揺れた硝子の氷の様にひやっとして、はっとした。
不意に俯くと、”自分自身”が、横たわっていた。
その胸元は、どんどん赤く黒い椿色の花が咲いている様に見えたが違う。
彼女は、弱々しい呼吸の中で、
此方を向きその穢れを知らぬ純粋無垢な瞳を此方に向けている。
違う。違う。目の前に居るのは、自分自身じゃない。
自分自身と同じ細胞を持ち生まれてきた、双子の妹。
「…………す、み………か………?」
恐る恐る手を伸ばし、妹に触れてみるけれども、
ぬるりとした慣れない感覚と感触を覚え、
震える手を不意に見る。手のひらにはべっとりと鮮明な紅。
弱々しい呼吸が、どんどん聴こえなくなる。
やっと気付いた。
(庇われたのだ)
(本来は、私が、こうなる筈だったの)
なんて呑気なのだろうか。
本来の自分自身が、妹の立場になるのだと、今更気付いた。
彼女が自分自身の代わりに庇い、深く傷付いたのだ。
ゆっくりと閉じられた瞳。頬を伝った静かな涙。
恐る恐る瞳を上げた。
その先には据わった目付きの男が、
肩で息をしながら此方をただ見詰めている。
(____誰だ?)
否。違う。自分自身は知っている。この男を。
けれども砂漠の様に乾いた喉元が、気道に張り付いて行き苦しく気持ち悪い。
嗚呼。
嗚呼。
嗚呼。
運命の歯車が、
軋み出した事を受け入れながら、
少女もぷつりと意識が途切れた。
新たな愛憎劇の幕開けとなります。
よろしくお願い致します。