4話
「誰だあの人」と困惑し、様子をうかがっていると、ここで俺の端末に二年越しのとある相手のからの電話の通知がくる。
このタイミングで俺に電話をしてまで話したいことなんて予想できるが一応出ることにした。
「はい。もしも――」
「おにぃ! めっちゃ怖いんだけど!」
「おい待て落ち着け。言いたいことは大体予想がつくが、何が怖いんだ」
ここを最初に聞き直さないとまるで俺が化け物になって帰ってきて妹が怯えてるみたいになっちゃうから。
電話越しに妹が深呼吸しているのが聞こえる。
「落ち着いた?」
「落ち着いた? かなぁ」
「なんで疑問文になってんだよ。落ち着いたんなら言ってみ」
「家の前の知らない人が超怖い」
「そうか。良かった良かった。俺じゃなくて」
「何のこと?」
「こっちの話だ。気にしないでくれ」
その後妹から聞いた話だと、妹が帰路についたのは丁度二時間前。そして下校後、家でのんびりしていると知らぬ間にあの女性が家の前に立っており、外に出られないし、怖いしで困っていたらしい。
「このことなんで俺に連絡入れなかったんだよ」
妹から返ってくる返事が、どうせいつもしていないから今更連絡するのが恥ずかしいとかなのだろうかと思っていたが、違かった。
「おにぃ。何かしてたら邪魔になっちゃうかなって思って……」
流石にこれにはため息をつく。
「いいか? こういう時はちゃんと助けを呼べ。それはもちろん俺じゃなくてもいいが、俺なら自分のことなんてほっぽって一目散にメグのところに駆けつけてやるから。次は助けを呼べよ?」
「……」
え。くさいセリフ行った後に無言になられると言ったこっちがつらいんだが。
まぁいい。今は目の前のこの人をどうにかしないと。
何の目的でここにいるかなら、妹の後をつけてたのは十中八九この人だろうし、この人に狙いは妹か。にしても家の前でそんな堂々と立ってるか? 普通隠れたりしないか?
わからん。俺の頭じゃ何もわからん。
「ねぇ。おにぃどうしたの? 大丈夫?」
「大丈夫だ。少し考え事をしてただけだ」
よし。もうこれは直接訊くしかないな。
覚悟を決めて踏み出すが、足がブルっと震えた。
おい。ビビってんのか? 俺。やるって決めたんだからもう行くしかないだろこれは。それにあの人がやばい人じゃない可能性だってある。だったら速く事情を訊かないとあの人にも失礼だろ。
そう思いながら徐々に女性との距離を詰めた。
今更だが、冷静になって女性を見てみると、女性の髪は銀髪だった。銀髪で、なおかつ長い綺麗に手入れされた髪。
でも銀髪の人なんて染めない限りいない。
両親に他人を顔や見た目で判断しちゃいけないと散々言われてきた俺だが、やはりやんちゃな人なのかとイメージが組みあがっていく。
しかしここで引き下がる俺ではない。
そして声をかけた。
「あの! うちに何か用ですかっ!」
すると「おにぃ。おにぃももしかして怖いの?」と妹が喋ったので「うるせ。黙ってろ」と言って電話を切った。
女性はゆっくりとこちら向き、女性と目が合うと俺は驚いた。
瞳にいろんな色が混ざっていて、まるで作り物のように見えたのだ。
女性は無言で会釈すると、俺も会釈した。
「一つお聞きしてもよろしいでしょうか」
「はい。何でしょう?」
「この家に住まわれている方の中に岡田ソルという名前の方はいますでしょうか」
「え?」
ちょっと待ってくれ。妹じゃないのか? なんでここで俺の名前が出てくるんだよ。
もしかして学校の人か? いやいや。学校の関係者ならわざわざ生徒をつけなくても俺の住所くらいわかるだろ。意味がわからない。
予想外の女性の発言にただひたすらに困惑した。
「どうかされましたか?」
「いやなんでもないです」
ここは一旦噓をついてやり過ごすか? でももし仮に学校の人とか役所の人だったらお互いに困るしなぁ。
と、ここで一つ新たに分かったことがある。
それは女性の後ろに何やら大きな箱があったのだ。
間違いない! この人は宅配業者の人だ。どうせ上の人に近いから徒歩で持ってけとかって言われたんだろ。妹が後をつけられていたと思ったのも単なる勘違い。寄り道してないって言ってたし、最短で同じところ目指していたんだから同じ道を使っていてもおかしくはない。
なんだよ、びっくりさせんなっての。
俺はため息をつくと女性に自分がそうであると告げた。
すると女性は右手を差し出してきた。手のひらには見たことのない白く丸い端末が乗っている。
「何ですか? これ」
「確認と登録です」
登録って……。悪徳商法的なのじゃないだろうな。まぁいいか。
俺はそんなことより女性の手に触れることに対しての恥ずかしさのほうが勝った。
しかし恥ずかしさを我慢して言われた通りに手のひらに左手を重ねると、女性は目をつぶった。
「これでいいんですよね」
返答を求めたが情報を確認中なのか何もしゃべらない。
どうせだから届いた荷物を見ておこうと女性の背後を覗く。
大きさはこの国の成人男性の身長と同じ俺のお腹くらい。箱は主に黒を基調としているが辺には銀色の装飾がされている。
そんな重たそうな物を女性が一人で持ってきたのかと周りを見渡すが、トラックも台車すら見当たらない。
どうやってここまで持ってきたんだ?
でもあの箱が重いと決まったわけじゃないし――わからないな。
俺が考え事をしている間に女性は目を開いて「承認されました」と独り言のように言った。
「えっと……ここまでやっといてなんですが、これって何の承認なんですか?」
それを聞くと女性は「マスター登録です」と表情一つ変えずに言い放った。
「は? マスター登録? なんの? なんのマスターに俺はさせられたの?」
この時の俺がもっと世間知らずじゃなかったら俺はこれから起こる事件に巻き込まれず、今までと同じ平穏な日常のまま過ごせたかもしれないと考えると後悔しかない。
「わたしのですよ。これからよろしくお願いしますね。マスター」
そう。
彼女はアンドロイドだったのだ。
こんにちは、深沼バルキです。
プロローグが終わった感がありますね。一応主人公格は出そろったかな? というところです。まだ名前も出ていない彼女ですがよろしくお願いします。
ここまで読んでいただきありがとうございます。