15話
その日再び俺はハッと目を覚ました。
重たい体を無理やり起こして見渡すと、自分が白いベットで寝ていて、横には心電図らしきグラフのようなものを映し出す機械があることから、ここが昼の病室であることが分かった。
特に病を患っていた記憶はないんだけれど。そしてなぜか個室。
個室を使えるほど、うちが金持ちだった記憶もない。
さらに付け加えるのであれば俺の知っている病院よりも周りの機械類が少ない気がする。
あっ。そうだった。俺今、過去の場所にいるのか。知り合いもいなく、知っている場所でもない。これからどうすれば……って、エゴはどこだ? 俺がここにいるってことはあいつも無事にこっちにこれたはずだけど……。
エゴを見つけようと再度部屋を見渡しているとガラガラと部屋の引き戸が開き、同い年くらいの赤い服の男がリュックを手に持っていきなり入ってきた。
「おお! 目を覚ましましたか! それはよかった!」
目が合うと男は笑顔でたちまち距離を詰め、高笑い。
あ。この人日本語だ。
スイッチを切り替えるように俺は母国語から、日本語に頭を切り替える。
「あの、誰で……」
「いやー! 日課のランニングをしていたらいきなり道で倒れている人を見かけたものですからびっくりしましたよ! それに特に外傷もなくてよかった! はっはっは!」
何だこの人。間髪入れずにずっと口が動いてやがる。怖い。この人怖いんだけど! というかすごい暑苦しい。
するとこの状況を聞いてか、もう一人、カーキ色の服を着た男にも女にもとれる両性類のような人が出てきた。
「こらこら。暑苦しすぎてそこの人も引いてるじゃないか。まったく。出てくる予定じゃなかったのに……。それに最初に説明をすべてしろって言ったじゃないか」
話し方は男の印象を受けたが、本当のところは訊いてみないとわからなそうだが、知られたくない場合もあるだろうから、訊かないことにした。
「ああ! そうだった! すまない。まことにすまない!」
「はぁ……。俺は大丈夫ですけど」
「私の名は高瀬 正善。後ろにいるのが喜多川……。喜多川~? う~ん? 喜多川の名前が思い出せん! すまん!」
ため息をつくと、もう一人の男? は「みつきだよ」と言った。
「それだ! いやー。いつも苗字で呼んでいるから忘れてしまっていたよ。はっはっは!」
「ごめんね。こいつ勢いだけが取り柄の男だからさ。アホなんだよ。でも悪い奴じゃないからそこは安心して」
安心も何も未だ完全に状況を把握できていないのだが?
そして二人から、高瀬さんが道端で倒れている俺を見つけて通報し、この入院費も出してくれていることを知った。
「そんな。悪いですよ」
「問! 題! ない! だから気にしなくていいぞ!」
「こいつの家かなり金持ちなんだよ。だから金銭面は気にしなくてもいいってことだと思うよ。それに駅前の募金活動に躊躇なく一万とか入れるような奴だから、これもその慈善活動の延長線みたいなもんだと思うしね」
そうだとしても見知らぬ人に個室の病室を使わせるって、どんなお人好しなんだ? それか金銭バグってるだけなのか。でもこうして見舞いにも来るような人だしなぁ。わからない。
高瀬さんはリュックを下に置くと、いきなり触れそうなほど顔と顔を近づける。
「ち、近いんですけど……」
「名前は?」
「え?」
「私はまだ君の名前を知らない。だから何て呼べばいいんだ?」
そうだった。まだ名乗っていないんだった。
「俺は……」
いや待てよ。俺はこのまま本名を言っていいのか? 言ったことで今後の行動に支障が出るのであればそれは避けたい。でも助けてくれた人だしなぁ。
「ん? どうしたんですか?」
「いやなんでもないです」
そうだ。俺は大切な人とあの場所を守るために今ここにいるんだろうが。そんな一時のことで今後を左右するかもしれない決断はできないし、しちゃいけないだろうが!
「俺の名前は……加藤……アヤトだ」
その場しのぎの思い付きの名前なため、もちろん由来はない。
名前を聞くと高瀬さんは「これからよろしくたのむ、アヤト!」と変わらず暑苦しさを見せつけてきた。
「お、おう。よろしく」
すると今度は喜多川さんが「よろしく。加藤君」と言って手を差し出し、その手を握り握手した俺は「よろしく」と言った。
「ずるい! 私も握手するぞ!」
強引に俺の手を握り、高瀬さんは俺の手を激しく振った。
その結果、無傷だった俺の手首に痛みが残った。
手をさすっていると喜多川さんは一つ訊いてきた。
「そういえば加藤君ってどこの学校通ってるの?」
説明の難しい質問が来てしまった……。
ここから一番近い学校などと下手なことを言ってこの人達と同じ学校になってしまっても困るし、ここは通ってないことにするのが無難だろう。
「いや。俺は学校行ってないよ」
「あー……」
訊いてはいけないことを訊いてしまったかのように愛想笑いしながら目をそらされた。
それを察した高瀬さんが逃げるようにバックを持って帰る支度を整えた。
「では今日はこれで帰ることにする! 医者には目を覚ましたら、色々な検査をした後、何もなければ数日で退院できると聞いている。だから安静に!」
「じゃ、じゃあ。お大事に」
そう言って二人は帰っていった。
これからは日本語に慣れていかないとな。
それにしても同い年くらいということは彼らも学生なのだろうか。でも今は昼間。そして彼らは制服じゃなかった。大学生という可能性もあるけどそうじゃないのなら、今日は休日か?
そんなことより、俺がこっちに来てから何日経過しているんだ? 部屋に日付を示すものはあるけどそもそも俺がこっちに来た日を知らなければ意味がない。
「日本語真面目に勉強しててよかった。じゃないといきなり街中で日本語を喋れないやつがいきなり現れたことになるところだった。そもそもここにエゴがいればこんな焦ることもなかったのに……」
エゴがいれば一瞬ですべてが解決していただろう。
「あいつどこ行ったんだよ……」
独り言が止まらない。ってあれ。俺、あんなやつのことを頼りにしてるのか?
確かにこんな全く知らない、もはや別世界みたいな場所に連れてこられて困っているとはいえ、あんな奴のことを頼るなんて今の俺はおかしい。きっと起きてからまだ時間も経っていないからまだ情報の整理ができていないのだ。時間が経てばこんなことを考えることはなくなる。
白い布団をどかしてベットから立ち上がった。
まだ体はだるいが動けないほどではない。
壁伝いに歩き病室の出口に着き、ドアを開けた。顔だけを出して廊下を見渡してみるが、看護師が数名歩いているだけで人はそれほどいなかった。
この隙に俺は病室を抜け出した。走れるわけではないのでゆっくりと静かに抜け出した。
でもどこが出口かなんてわからないし下手に動きすぎても見つかるだけだと思い、俺はとりあえず下を目指した。
理由は人が多い場所なら紛れ込めると思ったからだ。
しかし今の服装は恐らく病院で支給された服。ばれる確率は高い。
それでも何か情報を得られるものがあるのなら行くしかない。
そして一階へと向かい、即見つかった。
曲がり角でばったり会ってしまった俺と看護師は一瞬時が止まったかのように息をすることも忘れるほど動かなかったが、走ることのできない俺はすぐに腕をつかまれ、捕まった。
「貴方。ずっと倒れていた子でしょ? 意識が戻ったのはいいことだけど、ずっと体動かしてなかったんだから無茶しないの。部屋で安静にしていてください!」
「もう大丈夫ですよ。こうして動けますし。それに部屋だと暇すぎて……」
「それでも部屋にいないとダメです!」
黙って連行される俺に抵抗できる力などあるはずもなく、元いた部屋に連れていかれる。
その道中。椅子の上に置かれた紙を見つけ、看護師にばれないように回収し服の中に隠した。
部屋に着くと看護師は安静にしているようにとまた言って部屋を去っていった。
俺はそれを見届けると、回収した紙を取り出した。
何枚もの大きな紙に文字がぎっしりと埋め尽くされたその紙に似ているものを知っていた。
「なんだこれ。新聞なのか?」
一番大きな見出しには、収束という文字がでかでかと書いてあり、その横にはウイルスの写真が写され、本文には長きにわたる人類と新型ウイルスとの戦いにやっと終止符が打たれたと書いてある。
確か歴史の授業でそんなことを習った覚えがある。新型ウイルスの世界的流行、パンデミック。それが収束したという年にいるということは……。
「やっぱり本当に過去に来てんだな、俺……」
心のどこかでまだ実感のなかった時間跳躍。やっとここにきて実感が出てきたのだ。
拳をぎゅっと強く握った。
本当に救えるんだ。妹もノックも!
これからの自分の行動すべてが過去を変えると思うと俺は変に興奮していた。
こんにちわ、深沼バルキです。
第一章開幕です! 全然更新してこなかったのはこの一章とそのまた次の二章の伏線や内容を練っていたからです。遅くなり申し訳ないです。
でも今後も適度に投稿していきますので感想や意見をよろしくお願いいたします
ここまで読んでいただきありがとうございます。




