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序章

初投稿のため至らぬ点もあるとは思いますが、楽しんでいただければ幸いです。

ここは最も神に近い地、カクリヨ。

神に近いというのは比喩などではなく、神の使いである天使と契約してカクリヨの地に豊穣をもたらしている者しかいない、ということだ。

司祭や神父だけではなく、貴族、市民、果ては身分も取り柄もない下民でさえ天使、神と契約し生活を営んでいる。


今年もまた、14歳の子供たちが神の使いと契約する時がやってきた。


「神に祈るのじゃ、皆の者。さすれば神の使いからの啓示が得られるじゃろう」


天使には位階があり、神に愛される者には上位、中位の天使が、それ以外の者にも下位の天使が契約を持ちかける。


広間の司祭が言うように、14歳になった子供は例外なくこの地で祈りを捧げ天使と契約する。子供たちがひとり、またひとりと天使と契約し、全員が契約し終わったと司祭が思った矢先、一人だけ契約が終わらない者がいた。


アーシャという名の女の子は顔を悲壮感でぐちゃぐちゃにしながら司祭に助けを求めた。


「何も起こりません、司祭さま」


周囲からは嘲笑が聞こえてくる。14歳の女の子に、この仕打ちはトラウマ以外の何物でもなかった。


司祭は言葉を発さない。ただ、アーシャを見つめるだけだった。


広場からは笑いとともに声が上がる。


「こいつ、親もいねえし神さまにも見放されちまったんじゃねえのー?」


アーシャは絶望する。自分だけが神に見放され周りに嘲け笑われるこの現実に押しつぶされていた。



「なんで…どうして私だけが…」


絶望が心を埋め尽くした時、一つの声が聞こえてきた。


『お前、絶望したな?俺と一緒にぶっ壊したくねえか?世界を、神を、お前を見捨てたすべてを』


「憎い…」


溢れ出る憎悪。止め処ない殺意。14歳の少女が持つべきではない感情が広間までも満たしていく。そして、どこからか聞こえてきた声に対して、首を縦に振った。


『フフ、契約成立だ。とりあえずこのムカつくゴミ共を根絶やしにしてしまおう』






アーシャには親がいなかった。というのも、赤ん坊のころに捨てられていたところを教会に拾われ育てられたからだ。このカクリヨの地では子供は天使と新しく契約できる宝であり、子供を捨ててしまう、というのはあまりにも特異だった。そのため物心つく頃には周りから疎まれ虐められ、教会の神父やシスターも自分の子ではないからかそれを特に咎めようとはしなかった。


毎日教会のために掃除や洗濯をし、神に祈るだけの毎日。ただそれだけなのに、周りから邪魔者扱いを受ける。親がどこに行ったのか神父に聞いても、王都にでもいるんじゃないかとの適当な返事しか返ってこない。そんな生活を14年間続けてきた。


それでも、神だけは自分のことを見捨てたりはしないと信じて毎日ひたすらに祈ったのだ。


それなのに。


それなのに。


それなのに。




神ですら、私のことを邪魔者扱いするのか。




許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。






少女の背中から黒い翼が伸びる。目は赤く染まり、体中に黒い稲妻が走ったような模様が現れる。体も14歳とは思えないほど急に成長していき、角も生え、およそ人間と呼べる見た目ではなくなった。


「まさか、あれは…」


司祭はアーシャの変容に頭の整理が終わらない。周りの子供たちはとっくに腰を抜かしている。泣き出す者もいる。既に、広間は完全にパニックへと陥ってしまった。




一番早く動いたのは、司祭の傍にいたシスターだった。


「化け物め…その子の体から離れなさい!」


シスターが十字架を握り空中で印を切ると、光の矢がアーシャに向かって飛んで行った。


獣や魔物を狩るための攻撃。放たれた矢は、確かにアーシャを殺せるものだった。アーシャを殺せば、憑いている“なにか”は依り代を失い、消えるしかないはずだった。




が。




フッ、とアーシャが息を吐くと、矢が消滅した。いくら下民が住む寂れた村のシスターと言えど、中位の天使の攻撃だったにも拘らず、攻撃が届きすらしない。シスターは驚きを隠せない表情で、しかし慌てずに二発目を放とうとする。



それは叶わなかった。



既にアーシャの右腕はシスターの首を掴んでいる。知覚できないスピードで、一気に距離を詰めたのだ。


シスターが恐怖を感じる暇もないまま、アーシャは首をゴキリ、と握りつぶした。


「神に仕える職のあなたが、私を真っ先に殺そうとするのね。哀しい、哀しいわ」


依り代を失った天使が天界に帰ろうと飛び立とうとする。アーシャはそれを捕まえ、頭を強く握った。天使は地に堕ち、動かなくなった。




子供たちは完全に恐怖に支配された。自分と契約した天使に助けを求め、皆闇雲に攻撃を放つ。


周囲からの攻撃に意を介さず、アーシャは司祭に話しかけた。


「ねえ、司祭様。私、この人が一番信頼できるわ。私の心に寄り添ってくれるのは、この人だけだもの」


司祭は上位の天使を呼び出し、警戒を解かずに返答する。


「駄目じゃ!それは“悪魔”と呼ばれるモノなのじゃ。アーシャ、お前を堕落させ世界に破滅をもたらすのじゃぞ。早く契約を切るのじゃ!」


アーシャはクスクスと笑い、目から赤い涙を流す。


「哀しい、哀しいわ。司祭様も私をわかってはくれないのね。こんな世界、破滅して何がいけないのかしら。私の親は王都にいるのよね?ならそいつらも殺してしまいましょう」


『フフフ、アーシャの何がわかるのだ、神の小間使いよ。コイツの絶望を汲んでやれなかったお前がなんとかしようとしても手遅れなんだよ、フフ』


悪魔もアーシャに乗って司祭を挑発する。こうしている間にも、アーシャは次々に周りの子供を翼の羽根を飛ばし殺していく。依り代を失った天使たちは、羽根に触れると次々に堕ちていく。


「悪魔め、幼気な少女を誑かしおって…神の名のもとに成敗してやろうぞ!」


司祭は光の矢を連射する。物量に物を言わせた攻撃に、アーシャは圧される。攻撃はあまり効いてないと感じるが、防御態勢をとらなければ防ぎきることは難しいだろう。


『フフフ、苦戦しているのか?戦い方を教えてやる。右腕を貸せ』


アーシャは悪魔に言われるがまま右腕から力を抜く。右腕は黒く染まり、手には槍が握られていた。


『上級天使?力を見るにトップではないだろう。フフフ、我らに逆らうとどうなるかわからせてやろう』


槍を投げる。矢を跳ね除け突き進む槍を見て司祭は防御態勢をとる。


『やはりその程度か。雑魚は寝ておけ』


漆黒の槍は防御する腕を貫通し、心臓を貫いた。


そのまま天使も貫き、天使は消滅した。


「戦い方もなにも力技じゃない。出来るならやってたわよ」


『フフフ、すまなかったね』


アーシャは悪態をつく。横たわる司祭が、最後の力を振り絞って声を出した。


「アーシャ、おぬしはわしらに嫌われていたのではない…信じてくれ…おぬしには」

グシャリ。アーシャは司祭の言葉を最後まで聞かずに頭を踏み潰した。


「うるさいジジイねまったく。悪魔さん、この村を滅ぼすの手伝ってくれる?」


『フフフ、この村だけじゃなくすべてを滅ぼすまで力になるとも』




年に一度の聖なる儀式は、大虐殺で幕を閉じた。




これがカクリヨの辺境の村の終わりであり、またカクリヨの滅びのカウントダウンの始まりだったのだ。


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