星誕祭② 〜公演〜
あれから、ウィンザード君とはいくつかの屋台をめぐり、いくつかの見世物を見物して過ごした。
祭りを回っている間、否応無しに目を引くウィンザード君を連れ歩くのは中々にスリリングで初めの内は気が休まらなかったけれど、案外周りに露見しないもので、いつの間にか普段クーと一緒に歩いている様に一緒に街を歩ける様になっていた。
諦めていた星誕祭だけれどウィンザード君のおかげで、結果的に凄く楽しむ事が出来た。
気持ち的にも体力的にも大満足。
途中でクーの研究室の発表を見るため、メインステージにも一緒に顔を出したりもした。
クー達の発表は馬術の出し物で、卒業生が操る十数騎が音楽に合わせてステップを踏む様はすごい迫力だった。
その中でも、頭一つ飛び抜けて馬の操作がうまいクーは、観客が歓声をあげるほど格好良くて、私も黄色い歓声に混ざって精一杯応援をしておいた。
「だいぶ日が暮れてきましたね」
いつの間にか、高かった陽もかなり傾き始めている。
「この、後何か見たいものとかある?」
文句の一つも言わずに、付いてきてくれた騎士さんに振り向く。
「この通り、こういった祭りのエスコートは不得手なので。男として情けないですが、任せてもいいですか?」
まだまだ、体力的には余裕がある様子のウィンザード君。
帰るつもりはないみたい。
彼も楽しんでくれているのだろうか。
「朝の錬金術を見たステージで、有名な旅芸人さん達がゲリラで流行りの歌を歌うらしいから、そこで歌を聞きたいな」
昼頃に飲み物の屋台のお姉さんに教えてもらってから、後で行こうと思っていたのだ。
「屋台で聞いていたやつですね。是非いきましょう」
ウィンザード君も覚えていたらしい。
私は旅芸人さん達の歌が凄く好きだ。
吟遊詩人さん達のような語りかける歌も好きだけれど、一緒に楽しもうと周りを巻き込むような彼らの曲の方が私の性に合っているのかもしれない。
彼らが感じた事をそのまま発散するかのような、そんな歌が好きなのだ。
「ハナビさんもよく歌っていますよね」
「そうかな?…そうかも。歌うの好きだから」
そうは言っても私が歌うのはもっぱら鼻歌なのだけど。
本職に比べたら見劣りも良い所。
「『忘我』のハナビですもんね」
「うわ、それアルス君でも聞いた事があるの?」
どちらかと言うと浮世離れしているイメージがあってそう言った噂には疎いと思っていたのに、意外だ。
猛烈に恥ずかしい。
痒くなる通り名に、顔が赤くなる。
「昨日、練習が終わってから調べました」
「あの後に?」
ウィンザード君は事も無げに頷く。
やっぱり体力お化けだ。
昨日の手合わせの後に続けた剣舞の練習は、予想以上に上手く行ったから。
今まで苦戦した事が嘘かのように、手合わせの後から私と彼の息はすごく合う様になった。
ただ、そのせいでお互いに辞め時がわからなくなって、終わる頃には動くことすら億劫になるほどに疲れ切ったのだ
私なんて、更衣室で寝落ちしてしまって、扉の外からウィンザード君に起こされるという失態を重ねている。
「タイミングさえ合えば、他のご友人とも挨拶してみたいですね」
私の忘我を調べた際に、みんなの通り名も知ったらしい。
「うん、今度、紹介するよ」
ウィンザード君はとても礼儀正しいから、他の三人とも上手くやっていけると思う。
もしかしたら、サイモンあたりが女の子関係で勝手に敵対視するかもしれないけれど、根っこの部分では嫌ったりしないはずだ。
「さあ、では広場に向かいましょうか。お嬢様、どうぞこちらに」
そこなら、エスコートは任せてくださいと、ウィンザード君は仰々しくお辞儀をして、それから笑った。
何刻かぶりに、戻った広場は昼間に見たときよりも人が集まってきていた。
すでに、旅芸人さん達の歌は始まっていて、一座が曲に合わせて楽曲を奏でている。
音楽に合わせて、踊り子の女の子達が歌い踊り、夕闇を照らすカラフルなカンテラが踊る影を色濃く写し出している。
有名なだけはあり、見物人はとても多い。
周りの人たちも歌や踊りに合わせて手拍子をしたり、声をあげて一緒に歌っていた。
衣装や振り付け、音楽の雰囲気から旅芸人さん達の旅してきた国を思わせる。
「わあ、素敵だね」
周りの声に邪魔にされない様に拡声の魔道具が用いられているから、横にいるウィンザード君に対して叫ぶ。
「凄い活気ですね、こう言うのは初めての経験かもしれません」
ウィンザード君の返事も大きめだ。
聞けば、ウィンザード君は普段はもっと格式張った綺麗な音楽を聞くらしく、こう言う音楽を聴く事自体が初めてらしかった。
若干周りの雰囲気に気圧されている様に見える。
「あんまり好きじゃない?」
「いえ。みなさんとても素直に感情を曝け出していて、とても好ましい」
家に内緒で友達と騒ぐのは僕も好きなのですよ。
と続ける。
「気に入ってくれてよかった」
そうこう話しているうちにも、目まぐるしく音楽の雰囲気が変わっていった。
嬉しくなる様な音から、強く激しい音、悲しい音に、楽しくなる様な音。
それぞれ、別々の歌い手が競い合う様に歌っていて、全員の方向性が違う声色なのに、不思議と調和されていて、聞き手を飽きさせない。
いつの間にか、旅芸人さん達に促され、見物人のみんなも音楽に合わせて踊り始めていた。
「私たちも踊ろう」
「いえ、僕は」
こう言う踊りは習った事が、と続ける彼の手を強引に引っ張って、人混みに飛び込む。
「適当でいいんだよ」
手を取ったまま、笑う。
流行りの曲に合わせて踊り、みんなと一緒に歌う。
ウィンザード君は笑いながらも、持ち前の運動神経で踊りの体を取りながら、ちゃんと付いてきてくれた。
「いいぞー!兄ちゃんと嬢ちゃん!」
私たちの踊りは、周りに比べると凄く大振りで、目を惹いていた様だ。
昼間の串焼きのお兄さんが私たちに気がついて応援してくれる。
踊りの振り付けが周りと違うのは、所々で剣舞の動きを取り入れているから。
周りで楽しんでいる人もそれを邪険にせず、自然に場所を空けてくれる。
急に踊りが走っても、付いてきてくれるウィンザード君は流石で、気持ちが昂ぶっていく。
「–––––、–––––、–––––」
音楽に合わせ歌い、踊る。
ウィンザード君は一瞬だけ驚いた様な顔をしたけれど、いつもの様に微笑んで、付き合ってくれていた。
優しい音にも、激しい音にも、跳ねる様な音にも、驚くほどぴったりと息が合う。
お互いにそれに驚いて、一瞬の後に笑い合う。
一頻り踊って、歌って、笑いあった。




