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第5話 「ロクデナシ」も禁句

 カップ麺、ホットドッグ、チョコバーを食べ終わったアサヒは、デザートに突入。

 プリンのフタを開けながら、彼方に訊いた。


「彼方はなんで昨日避難所に行かなかったの?」

「イキナリ呼び捨てかよ。そう言うアサヒこそ、なんで避難所に行かなかった?」

「呼び捨てにしないで」

「ねぇこのパン、メロン入ってないよ。ハズレー?」


 二人の会話に割り込むように。

 那智が、半分食べたメロンパンを覗くように見ながら、首を傾げて言う。


「メロンパンにメロンは入ってない」


 おにぎりを食べながら彼方が答える。

 え?

 という顔で青い目が彼を見つめる。

 アサヒが補足するように説明を加えた。


「パンの上に甘いビスケット生地をのせて焼いたパン、それがメロンパン。形も少しメロンに似てる、だからメロンパン」

「メロン入ってないのに……メロンパン、名乗ってるだとっっ????」


 パンを持ったまま那智が絶句する。


「ねぇ。子供がショーゲキ受けてるんだけど。メロンパン初体験?」

「みたいだな。つか驚くことか?」


 コンビニ店内の妙な和みとは正反対に、窓の外は異様な静けさ。

 人の姿はどこにもない。

 警察、消防、自衛隊は今どこでなにをしているのだろう。

 上空にはヘリの一機も見当たらない。


 俺達、この先どうなるんだろう……。


 缶コーヒーを一口飲んでから。

 彼方は、昨日からの経緯をアサヒにざっくりと説明する。


「俺は昨日学校が休みで、東京に昨日オープンする予定だった大天文台を見に来たんだ。夜行バスで東京に来て、朝、目が覚めたらバスの中に俺一人取り残されてた。バスから出たら街中めちゃくちゃで。ワケ分かんないまま、人のいない街の中を歩いてたら、一人でいたこの那智君と出会った。那智君から話を聞いて、自衛隊が住民を避難所に避難させたらしいと分かったんだけど、俺の地元は埼玉で土地勘ないし、避難所の場所も分からずで、昨日は結局この子と二人で雑居ビルで寝た。今朝、看板に電気が点いてたこのコンビニを見つけて、入ってみたら君がいた。という経緯」


 途中、火を吐く鳥と対決して別次元から水鉄砲出した件は、一ミリも言う気ない。

 朝方まで力の訓練して、いまだ水鉄砲しか出せない件も、言う気ゼロ。

 アサヒはデザートのプリンを食べながら、ダルそうに話す。


「私は昨日の朝、学校の教室の窓から、ものすごく大きな鳥が一羽飛んでるのをクラスメートと一緒に見た。角の生えた狂暴な黒い鳥で、その鳥は大きなカギ爪で、辺りの民家の屋根を剥がしたり、学校の校舎の屋根も壊して行った。その後、急にあちこちでサイレンが鳴り出したの。そして避難指示命令が発令されて、生徒も教師も全員避難所へバスで強制移動。私は街に用事があったから、途中で無理やりバスを一人で降りた」

「チャレンジャーだな」

「言ったでしょ、用事あったって。私には十歳年下の弟がいるの。昨日はその弟の誕生日で、街のケーキ屋にバースデーケーキを予約してたから、それを受け取りに行くためにバスを降りたんだけど。結局そのケーキ屋は半壊してて、誰もいなくてケーキもなかった。街の中は、店や家があちこち壊されていて、住民も避難して誰もいなかった。それからすぐに避難所に向かったけど、道の途中に透明な壁みたいなのができてて、避難所に行くことができなかった。仕方なく、このコンビニ近くの無人カフェで昨日は寝たの。で、今朝KRSのこのコンビニを見つけて食事してたというワケ」

「道の途中に透明な壁?」

「うん。バリアみたいなの」


 なんじゃそりゃ。

 道の途中、という言葉で思い出して彼方が訊く。


「今朝、このコンビニに来る途中の道に、動物図鑑に載ってない怪物の死骸が数匹転がってたんだけど。アサヒが殺したんじゃないよな?」

「私じゃない。怪物の死骸あるの? 見たい」

「やめたほういーよー。すごく臭い~~鼻もげるーー」


 鼻をつまみ、顔をめいっぱいしかめて、お子様が言う。

 それを横目で見ながら、彼方が言葉を続ける。


「昨日、怪物退治した戦士を見たから、もしかして君も戦士なのかなと思ってさ」

「戦士、って警察や自衛隊のコト?」

「いや違う。見れば分かる……いや、見ても理解できないかも」

「なにそれ」


 疑心な目を向けるアサヒに、苦笑いでやり過ごす。

 ホントに、なにそれ、だ。

 AIやナノテクの時代に、戦士とか、怪物とか、


 マジあり得ねぇ……。

 

 ふと。

 プリンを食べているアサヒの手元を、那智がじっと見ているのに気付く。


「プリン食べるか?」


 そう訊くと。

 那智は彼方を見上げ、首を横に振る。

 チラリ、と視線をもう一度アサヒに向けた後、お子様はアップルジュースを飲み干した。


 朝食を済ませた三人は、それぞれ自分の食事の後片付けをする。

 ゴミ箱にゴミを捨てながら、彼方がアサヒに訊いた。


「避難所はここから近いのか?」

「歩いて七分くらい」

「今から行くんだろ? じゃさ、この子も一緒に連れて行ってくれないか。那智君は保護者がいないんだ。彼は魔法使いで、一人前の魔法使いになるための修行で海外から日本にやって来たんだ」


 真顔で彼方はそう説明した。

 那智は首を横に振り否定。

 アサヒは数秒無言の後、しゃがんで目線を那智に合わせて質問する。


「ホウキで空飛べる?」

「飛べない」

「魔法の杖持ってる?」

「持ってない」

「変身できる?」

「できない」

「じゃあ、なにできるの?」

「スキップとお絵かき」


 二人の会話は全部無視。

 彼方は、那智のバスタオルを畳んで手渡して言う。


「避難所の近くまで見送りしてやるよ。そこで那智君とお別れだ」

「? お兄ちゃんは?」

「家に帰る」


 キョトン。

 タオルを手に持ったまま、青い目が彼方を見上げてる。

 二人を見ながらアサヒが言う。


「つまり。私に小さな子供を預けて、自分はさっさと家に帰るってコト?」

「そ。俺はよそ者の埼玉県民だし、避難所では歓迎されないだろうし。こんな危険地帯とは一刻もサヨ~ナラ」

「地下鉄もバスも稼働してないけど、どうやって帰るの?」


 素朴な疑問をよこす相手に、彼方は、ヒラヒラと手を振りながら答えた。


「自転車と徒歩で自力で帰るから心配なく。ということで、坊やとはお別れだ。子供の子守りはメンドクサイ。いつまでもいると思うな、親と俺」


 メンドクサイと言われた上に、突然放り出されたような扱いに、那智は大逆上!

 両拳を握り締めて、声を張り上げ、噛みつくように言う。


「人でなし! 人でなし! 人でなし! ロクデナシ!」

「次に『ロクデナシ』と言ったらポリ袋一枚追加でかぶせる」


 指を差してそう言った彼方に。

 お子様はくるりと回れ右すると、唐突に別れの言葉を告げた。


「僕、行かない。団体こーどー嫌い。自由こーどー好き。お兄ちゃんとの縁切れた、もう用事ない。じゃあねさよなら、ばいばい」

「避難所にはフッワフワのパンケーキあるぞ。メープルシロップ付き」


 彼方が言う。

 するとお子様はくるりと回れ右して、快諾の言葉を告げた。


「お姉ちゃんと避難所行くことにしました」

「よし決定だ」

「はい、ボス」


 彼方のほうが一枚上手。

 単純だと扱いやすくていい。


 避難所にパンケーキなんてあるの?

 そう考えながら、アサヒは目の前の二人を見ていた。


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