第4話 アサヒとの出会い
近くにある商店やビルは全部無灯。
そのコンビニだけが看板に電気が点いていた。
店の入り口に行くと、センサーで自動ドアが開き、来客を知らせる『ピロロロ』という入店チャイムが鳴った。
蛍光灯が点いた明るい店内。
冷蔵コーナーのケース内にも電気が通っているのが見える。
無人……と思ったら、イートインスペースに人がいた!
一人の少女が座っている。
目が合って、彼方は近付いて話す。
「ここでなにしてんだ?」
「見ての通り食事の最中」
少女はカップ麺を食べながら、片手にホットドッグを持って、ガブリ。
横にはプリンとチョコバーも置いてある。
「朝からカップ麺かよ。一人なのか?」
「そう。貸し切り」
高校生だろうか、制服を着ている。
白の半袖ブラウスに緑色チェック柄のリボンタイ、膝上丈の紺色チェック柄のスカート。
大きくパッチリとした目。
肩下まである、少しクセのある柔らかそうな髪には寝グセがついたまま。
テーブルの上に、オレンジ色のバックパックが置かれている。
「なんでこの店だけ通電してる?」
天井の蛍光灯を見ながら、彼方が呟くように言う。
すると少女が答えをよこした。
「この店は『KRS』だから」
「KRS?」
「緊急時利用可能指定店、略してKRS。店のドアに、ピンクのリスのステッカー貼ってあったでしょ。それが目印」
「ステッカー?」
少女の言葉に、彼方と那智は互いの顔を見合わせる。
そして一度店外に出てドアを確認。
すると、十センチ四方の、ピンク色の背景にリスのイラストが描かれたステッカーが、入り口のドアに貼られていた。
ステッカーの下部には『緊急時利用可能指定店・KRS』の赤い太文字。
再び店内に戻った彼方が訊いた。
「なんでリスのイラストなんだ?」
「都知事がリス好きだから」
「ハ、そんな理由でか?」
「そんな理由で」
「緊急時利用可能指定店、ってなに?」
その質問に、少女はカップ麺を食べながら答える。
「都知事が可決させた法案。非常時や緊急時に限り指定された店は、店内の全商品を誰でも無料で利用できる制度。お金は払わなくていい。ステッカーが貼られた店は、非常用電源が確保されている万全設備。停電時でも、非常用電源をスイッチオンで通電する。大地震や自然災害を想定して今年六月から施行されたけど、今起きているような事態で利用するとは、誰も想像してなかったろうね」
「そんな制度できたのか」
「知らなかった?」
「ああ。俺は都民じゃないから。地元は埼玉で、昨日たまたま東京に来て、異常事態に遭遇してそのまま足止めくらってる状態」
彼方の横に立つ小さな子供の姿を見て、少女が子供に訊く。
「おもしろい仮装してるんだね。それ、なにごっこ?」
「ご覧の通り、隣にいるこの不良少年に、言論の自由を奪われたあげく、このような体罰を受けさせられています。ただちに、しかるべき機関へ通報してください」
店の壁に設置してある電話機を指差して、那智がそう訴えた。
少女は横目でチラリ、と電話を見た後、ダルそうに言う。
「んー……でも通報したくても電話通じないし」
「固定電話も使えないのか? 全部ダメなのか?」
「そうだね。通じない」
「クソッ。あ、そうだ、今のうちにスマホに充電しておこう」
彼方は自分のウェストポーチの中から、充電用コードを取り出す。
スマホに繋げた後、イートインスペースのコンセントに差し込み、スマホをテーブルの上に置いた。
袋をかぶった小さな勇者は、ガサガサ、音をたてながら自由行動開始。
狭い店内を歩いては立ち止まり、つま先立ちで棚に並ぶ商品を眺めて、また歩き出す。
探し物は掛け声からすぐに分かる。
「スシ、天かす、納豆ー。スシ、天かす、納豆ー」
……呪文みてぇ。
そう突っ込みたくなる。
テーブルにもたれて、那智の姿を見ながら、食事中の少女に言う。
「住民が避難してる避難所を探してるんだ。場所を知らないか?」
「知ってるよ」
「助かった。君は避難所に行かないのか?」
「行く予定」
「俺達もだ。あのさ、昨日からココでなにが起きているのか、知ってる限りの情報を全部教えてほしい……んだけど、まず最優先は『アレ』だな」
「アレ?」
ため息を吐きながら、そう言った彼方の視線の先。
アイスケース前でつま先立ちの小さな勇者。
ケースを両手で指差して、彼方を見ながら、無言で自分の要求を訴えている。
満面の笑顔で。
* * *
「なんで朝っぱらからアイスなんだ、しかも三本だ! 腹壊すだろっ」
「アイスは好きな時に好きなだけ食べなさいって、亡き両親の遺言書に」
「書いてあったんだな? 絶対だな?」
「ごめんなさい、僕の妄想でした」
右手に三本のアイスキャンディーを持ち、勝者の如く高く掲げて、那智が言う。
左手にはメロンパンとチキンブリトーだ。
呆れた声で彼方が言う。
「来日目的の寿司、天かす、納豆はど-した?」
「そーゆーキブンじゃない。今はアイスとメロンパンとブリトーのキブン」
お子様がキリリと答える。
製造日付が昨日のいなり寿司、天かす、納豆がコンビニに置いてあったが、総スルーだ。
両手に持つ食品は、ビニール個装と紙個装。
そんなことに彼方はふと気付く。
……そういえば。
周りを注視してみると。
食品の大半は、一部や全部がアルミ包装だと認識する。
昨日、彼方が那智にあげたクッキーの小袋も、確かビニール個装。
あれがアルミ個装だったら受け取らなかったかもしれない。
那智を見て彼方が言った。
「袋かぶったままじゃ食べにくいだろ。取ってやるよ」
「はい、ボス!」
「食べ終わったらまたかぶせる」
「ヤダー」
小さな腹が早く食べたいと、グゥ~~ウ~、鳴ってる。
それを苦笑いで聞きながら。
首元の蝶結びをほどき、頭からスッポリかぶせたポリ袋を取った後。
那智は背負っていたリュックの中から、青色のバスタオルを取り出した。
そして、イートインスペースのステンレス製のイスの上に広げてから座る。
様子を見ていた少女が、チョコバーの袋を破りながら訊いた。
「なんでイスの上にタオル敷いてるの? 潔癖症?」
その質問に彼方が答えを返す。
「この子は金属アレルギーなんだ。鉄、アルミ、ステンレス、金属全般に触れると火傷するらしい。このイスはステンレス製だろ、火傷しないようにタオルを敷いてから座るんだ」
「ふぅん。メンドクサイ子だね」
「そんなふうに言うな。本人は望んでそうなったわけじゃない」
彼方の言葉に、それはそうだ、と少女は素直に反省。
左横に座った子供に顔を向けて言う。
「ごめんね。メンドクサイ子って言って。謝るから」
「土下座して泣いて詫びろ」
「お前は調子に乗るな」
彼方の説教は右から左で聞き流され。
那智は、小さな両手を合わせて『いただきます』と言ってから、早速アイスキャンディーを食べ始めた。
道路を見渡す形で設置されたイートインスペース。
少女の隣に那智、その隣に彼方、三人が並んで座る。
彼方の朝食は、製造日付が昨日の、鮭、梅干、おかかのおにぎり三個をチョイス。
飲み物は、那智は紙パックのアップルジュース、彼方はボトル缶コーヒー。
彼方も早速おにぎりを食べ始めた。
「仲が良いんだね。兄弟?」
モグモグとチョコバーを食べながら少女が訊く。
彼方は即答で返す。
「よく見ろ。目の色違うし髪の色も違う、一見して分かるだろ。似てる要素ゼロだ」
「じゃあ、息子?」
「俺十六な! 高一な!」
「奇遇だね。私も十六歳で高一」
アイスを食べながら聞いていた那智は、両隣に座る二人を交互に見て言う。
「パパって呼んでいい?」
「呼ぶな」
「ママって呼んでいい?」
「いいよ」
「断れっ!」
那智と少女が笑顔でハイタッチする。
なぜ二人が意気投合したのか激しく謎。
「おもしろい子だね。キミ何歳なの?」
「七歳!」
「指の数と言葉が一致してないぞ」
「細かいことどーでもいー」
那智の両手の指は『五』を示している。
彼方が指摘すると、『六』に変わった。
残念、あと一つ、惜しい……。
「あー……自己紹介まだだったな。今日以降会わないと思うけど一応。俺の名前は、彼方」
必要だろうか、と頭の片隅で思いながら。
一応自己紹介をした。
「名前カッコイイね」
「あっそ。名前だけかよ」
「私はアサヒ。カタカナのアサヒ」
「僕の名前、なち。なち、はむづかしい字なの。こーゆー字」
そう言いながら、テーブルに指で『那智』という字を書いた。
「むずかしいの『ず』は、つにテンテンじゃなくて、すにテンテンだよ」
「日本語むづかしい。僕よくしゃべれない」
「十分流暢に話してるよ。アレ、そういえば。キミは目の色が青で金髪、もしかして外国人?」
アサヒのそのセリフに、彼方と那智が声を揃えて言う。
「今かよ!」