第775話 【デルタ∴サイン】幸福と不幸の狭間で
~アダムス エデンの園~
アリスとシンの闘いも佳境を迎える。
そんな中、闘いを終えたマリー達は全員が合流し、このエデンの園に足を踏み入れていた。
「ススムさん達は無事でしょうか・・・!?」
「天童、未央ちゃん―――」
「どこだ!?」
マリーが新を抱えながら歩く。
新の方が満身創痍。
タイアンとの激闘が相当身体に響いているようだ。
もう立って歩くのさえやっとの状態。
「アレを見るの!!」
キルが遠くを指差す。
そこには闘っている未央の姿が。
そして、その近くにいるのはエレナと横たわる進。
「未央が闘っているのか?」
リオンが口にするが、それは誤り。
アレは未央であって、未央でない。
中身は前魔王のアリス。
「いいえ、アレは未央ちゃんに憑りついてる魔王アリスよ。」
そう云ったのは鏡花。
鏡花には天眼の力で魂の形が見える。
故にあれが未央ではなくアリスであることに気付く。
異次元の闘いを繰り広げるアリスとシン。
スキルが使えないという不利な状態で、シンを圧倒する。
何故だッ―――!?
何故、このオレがここまで押される?
シンは闘いの最中、そう感じていた。
魔王アリスのステータスはせいぜい900~1000がいい所。
真祖化してもいい所、3000。
対して、このオレは全ステータス5000オーバー。
そんなオレがスキルも使えないアリスに苦戦するはずもない。
「クソオォォォーーー!!!」
「天童流剣術:雨月!!」
シンは高速の刺突を繰り出す。
アリスはその突きを見切り、刀を両手で掴んだ。
「なっ・・・!?」
これにはシンも驚く。
「フンっ!!」
アリスはシンの妖刀 月光一文字をその膂力を以て折ってしまう。
「ま、さか・・・!!そんなあるはずが・・・!?」
闘いとは理不尽なモノ―――
それはシンに対してもあり得る。
「ウオオォォーーー!!」
アリスはシンの顔面を殴りつけた。
「つ、強い・・・!!」
ここまでアリスが圧倒的だとは思っていなかった。
アリスがここまで圧倒できている理由は二つ。
一つは《憤怒》のスキルの影響。
コレは怒りの力により、全ステータスを1.5倍に引き上げるというモノ。
そして、もう一つが《進化の極意》のスキルの影響。
この二つはユニークスキルであるが故にシンの《不幸の上書き》の影響を受けない。
《進化の極意》は第二形態である真祖へと自分を変化させる。
しかし、それだけではシンには届かない。
それをアリスの本能が察し、更なる進化を促した。
そんなアリスは自分でも知らず知らずの間に第三の形態へと変化する。
それはかつて、神殿騎士の元帥エトワールを圧倒したあの未知の形態。
あの時のアリスはあの形態を制御できなかったが、今は違う。
未央の身体を借りているアリスはあの力を自らの力で制御しつつあった。
そんなアリスの力をシンは見誤った。
「もう分かっただろう?」
「シン・・・お前では余に勝てん・・・。」
アリスはシンに迫る。
「そんなこと認められるか!?」
「もう少しだ・・・もう少しで世界は一つになれる!!」
「こんな所で終われるかアアァーーー!!!」
「不幸よ・・・オレに力を与えろっ・・・!!」
「混沌魔法:混沌形態!!」
シンは混沌に包まれる。
そして、姿を現す―――
シンの最終形態。
シンもアリスと同様に力を残していた。
『不幸の上書き!!』
『アリス・・・お前のスキルを上書きできるだけじゃない―――』
『不幸の上書きはオレのスキルも上書きできるんだ。』
そう云うと、シンはその力を解放した。
少しの魔力を解放しただけで辺り一面は激しい爆発が発生する。
「進ちゃんを護らないと★!!」
エレナが進を庇う。
「随分と荒々しいですね―――」
エレナだけじゃない―――
ナブラとの闘いを終えた徳川も進を爆発から護る。
「エレナ御姉様、ご無事ですか!?」
「ええ・・・★」
ベロニカもエレナに協力する。
「あの戦い・・・割って入らなくて良いのか?」
セルフィが徳川へ尋ねる。
「えぇ、勿論あなたの言う通り割り込んでもよいのですが―――」
「辞めておきましょう・・・。」
「それは何故じゃ?」
セルフィはなんの気なしに徳川に聞いた。
「だって、あの二人、とても愉しそうですもの。」
「アレに割って入るなんて、私にはできませんよ。」
徳川は不敵な笑みを浮かべながらそう答える。
「それより、進様は大丈夫なんですかね?」
「全然、目を覚ましてませんが―――」
進はシンの不幸な罪を受けて、まだ眠っていた。
進は夢を見ている。
その夢が彼が目覚めるのを妨げていた。